国会の攻防(28)

国会の攻防(28)
平成24年から令和2年(2012年から2020年)
第二次~第四次安倍政権 ―ねじれの解消と一強政治

岸井和
2021.05.20

(1)再び対立へ

2012年12月の総選挙において自民党と公明党は衆議院の三分の二を超える議席を獲得、政権与党に返り咲いた。年末に開かれた特別国会(第182回国会)では安倍晋三が内閣総理大臣に指名され、第二次安倍内閣が誕生する。しかし、与党は参議院においては過半数を有しておらず、再び、衆参ねじれ国会となった。参議院の内閣総理大臣の指名は民主の海江田万里代表との決選投票を経て安倍が指名された。民主党が参議院の第一党であったものの、野党系小会派が50議席近くあり、いずれの党も参議院をコントロールできなかった1)第182回国会の召集日(12月26日)の参議院の各会派議席は、民主87、自民83、公明19、みんな11、未来8、共産6、社民4、みどり4、国民新3、維新3、改革2、大地2、無所属4。合計で236議席(欠員6)

衆参ねじれを前提に、安倍総理は「…政権与党である自由民主党と公明党が政権運営に主たる責任を負っていることは、言うまでもありません。その上で、私は、各党各会派の皆さんと丁寧な議論を積み重ね、合意を得る努力を進めてまいります。…2)2013.2.28 衆議院会議録」と施政方針演説で述べた。しかし、自民党は直近の選挙で正当性を与えられたことから、野党時代のうっ憤を晴らすかのように先の衆参ねじれのとき(福田、麻生政権時代)とは異なって強引な国会運営にでた。野党は衆議院では意気消沈しておとなしかったが、参議院においては議事運営の主導権をとった。参議院通常選挙を間近に控えて与野党の泥仕合が展開された。

 

2013年、第183回国会の委員長解任決議案、政府の予算委員会審議拒否

参議院環境委員長解任決議案可決

2013年の常会(第183回国会)では、衆議院では不信任決議案等は提出されていないが、参議院では3件提出されている。まず、5月7日に自民党の川口順子環境委員長に対して開会中の海外出張の不手際により野党から解任決議案が提出された。議院運営委員会理事会の了承を得ぬまま3)平成25年版参議院先例録 柱101説明文「議員が開会中、海外渡航する場合には、議院運営委員会理事会の了解を得た後、請暇書を提出する。」「(注)第38回国会昭和36年1月30日の議院運営委員会理事会において、開会中における海外渡航のための請暇については、あらかじめ同理事会の了解を得ることを要する旨の決定があった。」海外渡航期間を延長し、予定されていた委員会が開けなかったことが理由である。

野党が多数を占める参議院では可決される公算が高いなか、与党は解任決議案の処理が最優先事項であるとして決議案の問題が決着するまで参議院で審議拒否を行うという前代未聞の抵抗に出た4)2013.5.8 読売新聞。8日の予算委員会では、野党のみで総理出席の総予算審査が行われた。参議院で野党単独で総予算審査が行われたのは史上初のことである5)2013.5.9 読売新聞。同日の与野党国対委員長会談では、野党が与党に予算委員会への復帰と川口委員長の自主的な辞任を促すという異例の提案がなされたが与党側はこれを拒否し6)同上、定例日外の9日に本会議がセットされ委員長解任決議案は可決された。委員長解任決議案の可決は国会となってから両院を通じて初めてのことである(国会の攻防(4)参照)。

委員長解任決議案は合法的な審議妨害や委員会運営への抗議として提出されることが大半ではあるが、法的効力を持たない大臣問責決議案と異なり、可決されれば国会法により常任委員長はその身分を失う7)国会法第30条の2「各議院において特に必要があるときは、その院の議決をもつて、常任委員長を解任することができる。」(9日の本会議で委員長が解任され15日の本会議で後任が選ばれるまでの間は、自民党理事が委員長の代理を務めて環境委員会が開かれた8)5月9日(本会議散会後)の予算委員会委嘱審査、14日の法案審査。 )。与党委員長の無許可外遊が理由であるが、解任に至るまでの問題なのかは疑問がある。ただ、いずれにせよ参議院の与野党は対決姿勢を鮮明にした。

 

与党と政府の参議院予算委員会審議拒否

会期末近くの6月には、参議院の総予算審議の時間が不十分だったとして、野党が結束して委員会開会要求書を提出したうえで、予算委員会の開会を決めた9)参議院規則第38条第2項「委員の三分の一以上から要求があつたときは、委員長は、委員会を開かなければならない。」。委員長も民主党議員であった。6月25日の予算委員会には、与党は欠席、大臣や政府役人も欠席した10)前述の5月8日の参議院予算委員会も与党は欠席したが、このときは総理大臣をはじめとした政府が出席して粛々と委員会が行われた。この委員会は政府の最重要事項である総予算審査であったが、今回は予算案の審査ではなく、参議院通常選挙を目前にした野党による政府追及の場になることが明白であったため、政府与党は委員会開会に極めて消極的であった。。野党は合計すれば委員会の過半数を有しているので正式に開会されている。衆参ねじれのなかでも与党や政府が出席しないのは極めて異例である。

内閣総務官室は前日24日付の文書で、与野党合意の下での委員会ではなく、また、参議院議長不信任決議案が提出され処理もまだなされていないことから政府は出席しないことといたしますと通告していた11)2013.6.26 参議院会議録 小野次郎議員(みんなの党)の討論。しかし、これは便法であったとしか思われない。国会法では委員会は議長を経由して総理などの出席を求めることになっているが12)国会法第71条には 「委員会は、議長を経由して内閣総理大臣その他の国務大臣並びに内閣官房副長官、副大臣及び大臣政務官並びに政府特別補佐人の出席を求めることができる。」とあり、議長経由での出席要求を定めている。しかし、慣行としては各委員会における先例を基準としつつ委員長権限のもとに議長を経由せずに出席を求めている。平成25年版参議院委員会先例録柱246「国務大臣並びに内閣官房副長官、副大臣及び大臣政務官並びに政府特別補佐人の出席要求は、委員長から直接これを行うのを例とする」、議長に対して不信任決議案が提出されているのでこの議長の権限は保留され総理らの委員会出席要請はできないと欠席を正当化する口実とした。

政府としては、参議院の野党委員長が主導して職権で委員会を次から次へとセットされ呼び出されたらたまらないというのが本音であろう。他方で、野党からすれば、委員長職権とはいえ、正規の手続きに則って開かれた委員会に政府が出てこないのは憲法13)憲法第63条 「内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。」に違反する暴挙となる。これまでにも与野党が合意していないまま与党が委員長職権によって委員会を開会することは少なくない。ただし、この時のように、野党が委員会で半数の委員14)国会法第49条「委員会は、その委員の半数以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。」を持つことは衆参ねじれの状況下でしか起こり得ないので、野党委員長が職権で委員会を開会すること自体が稀である。

 

参議院議長不信任決議案と総理問責決議案

与党は民主党出身の平田健二議長不信任決議案を提出していた。その理由は、議長が 21日の本会議を散会してしまい、衆議院の一票の格差是正の選挙区割法案15)衆議院小選挙区選出議員の選挙区間における人口較差を緊急に是正するための公職選挙法及び衆議院議員選挙区画定審議会設置法の一部を改正する法律の一部を改正する法律案(内閣提出) を審議する場が失われ、結果として衆議院の再議決への道を開き、参議院の審議権が失われたということである。6月26日の参議院本会議で野党が結束して反対し、議長不信任決議案が否決されている。

他方で、野党も報復に出て、安倍内閣総理大臣問責決議案を提出した。理由は、国務大臣の国会への出席義務を規定した憲法に違反して予算委員会を欠席したということであった。議長不信任に続いて総理問責決議案が審議され、野党の賛成により可決された。4回目の総理問責決議案の可決である。この日は会期最終日であり、そのまま閉会となった。7月21日には参議院通常選挙があり、与党が勝利したため、問責決議案の可決といった事態は無視されることになる。内閣総辞職や衆議院解散への引き金となったこれまでと違って、政権にとっては何の痛手にもならなかった。参議院が問責決議案を可決しても、法的効力がないため政治的に無視しうる状況があれば、参議院の権威を自ら毀損してしまうことになる。

衆参のねじれを解消した自公政権は、より強権的な国会運営をとるようになった。8年近く続いた安倍政権は、金融政策・財政政策・成長戦略を三本の矢としていわゆるアベノミクス政策を推し進める。内部昇格の慣例を打ち破り外務省出身者を内閣法制局長官に据えてまで集団的自衛権の解釈を変更し16)「国際法上、集団的自衛権を持っているが、その行使は憲法上許されない」旨の1981年の政府答弁書(稲葉誠一衆議院議員提出「憲法、国際法と集団的自衛権」に関する質問に対するもの)の考え方を堅持する歴代の内閣法制局長官と異なり、小松一郎長官(前駐フランス日本国特命全権大使)は集団的自衛権の行使を禁じる憲法解釈見直しに積極的であった。2013.8.17 読売新聞、特定秘密保護法案、平和安全法制17)我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案(内閣提出)、国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律案(内閣提出) 、組織犯罪処罰法案18)組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出) などの安保関係、治安関係の右派色の強い法案を次々と成立させた。これらは国家による人権の規制にも直結しかねない内容であり国民や野党の強い反発を招いた。他方で、国民年金法改正案、働き方改革法案19)働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案(内閣提出) 、地方創生、一億総活躍などの左派的、中道リベラルな側面の法案もあり、無党派層を取り込もうとした。

しかしながら、与野党の政策の決定的相違は分かりにくく、野党の国会戦術は世論の後押しをうけつつもそれを効果的に生かすことができず中途半端にも見えた。何よりも民主党政権時代のネガティブイメージは払拭できず野党の支持率は低迷したままであった。安倍政権に対する批判はあったものの、国政選挙では自民党、公明党が勝利を続けた。この結果、政府・与党は、一方では野党に対しては強気の姿勢を示して国会運営の先例を無視し、他方では与党内からの批判も封印し、意見の対立する法案も着実に成立し、安倍一強政治とも呼ばれ長期政権につながった。それでも総理が熱意を示していた憲法改正は実現できなかった。

 

(2)第二次、第三次、第四次安倍内閣における不信任決議案等

国会の法案審議において混乱を生じたのは、ほとんど会期末における参議院の審議であった。衆議院では不信任決議案等が提出されても淡々と処理されるケースが多かった。午前様の衆議院本会議は3回で、それも長時間ではなかった。これ対し、参議院では徹夜国会となることもあり、場合によっては(激しくない)牛歩が展開されることもあった。特に、特定秘密保護法案などの審議では参議院本会議は三泊四日(2013124日~7日)かかり、平和安全法制では二泊三日(2015917日~19日)となった。

 

脚注

脚注
本文へ1 第182回国会の召集日(12月26日)の参議院の各会派議席は、民主87、自民83、公明19、みんな11、未来8、共産6、社民4、みどり4、国民新3、維新3、改革2、大地2、無所属4。合計で236議席(欠員6)
本文へ2 2013.2.28 衆議院会議録
本文へ3 平成25年版参議院先例録 柱101説明文「議員が開会中、海外渡航する場合には、議院運営委員会理事会の了解を得た後、請暇書を提出する。」「(注)第38回国会昭和36年1月30日の議院運営委員会理事会において、開会中における海外渡航のための請暇については、あらかじめ同理事会の了解を得ることを要する旨の決定があった。」
本文へ4 2013.5.8 読売新聞
本文へ5 2013.5.9 読売新聞
本文へ6 同上
本文へ7 国会法第30条の2「各議院において特に必要があるときは、その院の議決をもつて、常任委員長を解任することができる。」
本文へ8 5月9日(本会議散会後)の予算委員会委嘱審査、14日の法案審査。
本文へ9 参議院規則第38条第2項「委員の三分の一以上から要求があつたときは、委員長は、委員会を開かなければならない。」
本文へ10 前述の5月8日の参議院予算委員会も与党は欠席したが、このときは総理大臣をはじめとした政府が出席して粛々と委員会が行われた。この委員会は政府の最重要事項である総予算審査であったが、今回は予算案の審査ではなく、参議院通常選挙を目前にした野党による政府追及の場になることが明白であったため、政府与党は委員会開会に極めて消極的であった。
本文へ11 2013.6.26 参議院会議録 小野次郎議員(みんなの党)の討論
本文へ12 国会法第71条には 「委員会は、議長を経由して内閣総理大臣その他の国務大臣並びに内閣官房副長官、副大臣及び大臣政務官並びに政府特別補佐人の出席を求めることができる。」とあり、議長経由での出席要求を定めている。しかし、慣行としては各委員会における先例を基準としつつ委員長権限のもとに議長を経由せずに出席を求めている。平成25年版参議院委員会先例録柱246「国務大臣並びに内閣官房副長官、副大臣及び大臣政務官並びに政府特別補佐人の出席要求は、委員長から直接これを行うのを例とする」
本文へ13 憲法第63条 「内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。」
本文へ14 国会法第49条「委員会は、その委員の半数以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。」
本文へ15 衆議院小選挙区選出議員の選挙区間における人口較差を緊急に是正するための公職選挙法及び衆議院議員選挙区画定審議会設置法の一部を改正する法律の一部を改正する法律案(内閣提出)
本文へ16 「国際法上、集団的自衛権を持っているが、その行使は憲法上許されない」旨の1981年の政府答弁書(稲葉誠一衆議院議員提出「憲法、国際法と集団的自衛権」に関する質問に対するもの)の考え方を堅持する歴代の内閣法制局長官と異なり、小松一郎長官(前駐フランス日本国特命全権大使)は集団的自衛権の行使を禁じる憲法解釈見直しに積極的であった。2013.8.17 読売新聞
本文へ17 我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案(内閣提出)、国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律案(内閣提出)
本文へ18 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出)
本文へ19 働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案(内閣提出)

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