予算の自然成立について

予算の自然成立について

岸井和
2025.01.28

国会ブログ大学の読者の方から、「本稿において平成元年度の総予算の自然成立日が『5月27日』となっているのに対し、財務省の資料では『5月28日』となっており、1日ずれている」というご指摘があった。結論から言うと、この1日の差については国会と財務省とで自然成立についての考えが統一されておらず、最終的解釈は定まっていないということである。

御承知の通り、予算については憲法60条2項の規定により、「…参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて30日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする」となっている。30日の自然成立の規定である。

憲法の規定は大雑把であるので、ギリギリに考えると曖昧な問題が出てくる。1つは参議院が予算を受け取った日、2つ目は起算日、3つ目は30日目である。

まず、第一の点。通常は衆議院での可決→参議院への送付→参議院の受領を同日に行うが、参議院側が受領を拒否ないしは遅らせた場合はどうなるのか?平成23年に実際に西岡参議院議長が受領を1日遅らせたことがあり(3月1日送付、3月2日受領)、憲法を字句どおり読めば自然成立の日を1日遅らせることになる。衆議院議長は憲法の趣旨に反するとして送付の日と受領の日は同じであるべきとの見解を取り、参議院議長は2日起算を主張した。ただし、参議院は30日以内に議決し、自然成立の問題は生じなかった(3月29日否決、憲法の規定により衆議院の議決が国会の議決となる)。

第二の30日の起算日であるが、普通の勘定とは異なっていて、受領(送付)の当日から1日目とする。国会内部に関係するカレンダーの勘定はすべて同じで当日起算となり、例えば国会の会期も召集日当日から1日と勘定する。これは国会法133条で定められている。

それで、第三の30日目の自然成立日である。例えば、3月1日に予算が衆議院で可決された場合、自然成立は3月30日なのか3月31日なのか?参議院が30日以内に議決しないということは30日目に決定するのか、31日目になって初めてわかるのか。いろいろと屁理屈はあるだろうが、結論的には国会側は30日目の午後12時に決まるとし、財務省側は31日目の午前零時に決まるとの見解を取っている。同じ時間ではあるが、これで自然成立の日付が1日かわってしまう。

しかし、この問題は理屈としては重要かもしれないが、実際にはあまり重要ではない。予算の執行開始にこの瞬間の差は影響を及ぼさないからである。ただ、30日目が会期最終日の場合だけは大問題となる。国会側の見解では予算成立、財務省側の見解では予算不成立となってしまうからである。現実に自然成立の30日目が会期最終日になったことはないし、憲法上の疑義が与野党対立の火種とならないようそれを避けるように国会日程は組まれている。岸内閣の日米安保条約の自然承認のときは余裕をもって会期を50日間延長した(会期延長の翌日に衆議院で条約を議決)。成立日の後世への記録という点では誤差が生じてしまうが、現実としては問題にならないようになっている。したがって、少なくとも現時点では自然成立日の議論は形而上学的なものとして扱われている。

 

[参照]

国会の予算審議(1) 脚注9 

令和6年の衆議院の総予算審査(審査日程と審査時間) 「総予算の年度内成立と自然成立」の項 

国会の攻防(5) 「②改定日米安保条約(1960年、第34回国会)」の項 

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