国会の日程と攻防(1)

国会の日程と攻防(日程闘争の場としての国会)(1)

岸井和
2021.07.15

 1日程闘争
 2儀式としての本会議
 3国会審議は政府がコントロールしている 
 4国会議員は審議の主役たりえるのか 
 5野党活躍の場―国政調査、スキャンダルの追及 
 6審議の大詰め 
 7野党の抵抗はどこまで可能か
 8日程闘争に意味はあるのか―「働き方改革法案」 

 9国会をどう修正するか 

1日程闘争

平成31年1月14日の読売新聞の社説に、「(国会の)活性化へ与野党は接点を探れ」という記事が出た。「不毛な日程闘争が繰り返され、政策論議が置き去りにされている」「国会を建設的な論戦の場に改める」べきであると。

「日程闘争をいい加減にしろ」という話は、何十年にわたって繰り返されている。日程闘争から脱却して時間をかけて熟議を尽くすことは重要だが、他方で、延々と時間をかけることもできず、ある程度の効率性も必要である。その両方の接点を求めていくことになるが、与党は「審議促進」といい、野党は「慎重審議」といい、与野党の思惑は全く別のところにあり接点は見えない。対決法案を巡る日程闘争は、今に始まったことではなく長年にわたって同じ状況が繰り返されている。

なぜなら、日程闘争を繰り広げるような法案については、国会審議が始まる前から、与野党のそれぞれのスタンスが異なり、平行線の自己主張を続けていくからだ。全体の法案数から見れば、真に対立するものは多くはない。しかし、政府の提案に対し、対立、対決をしなければ、野党は埋没し存在意義が問われかねない。選挙での飛躍の機会も失われる。あまりにも物分かりがよければ野党はレゾンデートルを失う。実効性がなくても対立を生じさせねばならない宿命を背負っている。その結果、日程闘争を前提に国会の先例は作り上げられてきた。

この仕組みにはみんな気づいていて、悪循環を乗り越えるために様々な国会の改革の努力が全く行われてこなかったわけではない。しかし、審議の在り方が改革されたとは言えない。暴力的な対立は避けられるようになり戦後直後よりはスマートにはなったが、基本的な審議方式は変わらず、同じような与党の強硬策と野党の抵抗策が繰り返されている。

 

2儀式としての本会議

国会においていかに日程が重要とされているか、本会議の在り方を見てもそれがうかがえる。
上のグラフは、第196回国会(常会)、182日間の開会時間ごとの本会議の開会数の分布を示したものである。

第196回国会の衆議院本会議は45回開かれている。4日に1回程度となる。このうち、1回の本会議が30分以下であったのは11回である。表にはないが15分以下であったのは9回である。ほんの数分で終わってしまったこともある。こんな短時間で本当に審議ができるのであろうか?審議は形式化してしまっている。委員会審査が終了した法案について本会議で簡単な報告があり、賛否を問う。一法案につき数分である。短い討論があったとしても言いっ放しで議論ではない。

他方で、2時間以上の本会議も10回ある。だが、このうち6回は解任決議案か不信任決議案で時間をとっている。要は、日程闘争のため、野党のうっ憤晴らしの演説で時間をとっているだけで、建設的な議論の場ではない。

最も多い18回の1~2時間の本会議のほとんどは、法案の趣旨説明を聴いたうえで、それに対して質疑を行うものである。質疑者は原稿を読み上げる。質問は事前に通告されているので、大臣も原稿通りに答弁を読み上げる。質疑者が何人かいると似たような質問が出てくるが、それに対する答弁は一言一句同じものである。みんな眠たくなってくる。

混乱している場合を除き、法案の採決、質疑や答弁の時間は管理されているので、事前に所要時間はほぼ分かっている。その時間が超過したりすれば議員たちは大いに不満を漏らす。「ほかの用事があるのに…」。

本会議は儀式でしかない。議会が法律や予算、内閣などの正当性を担保するための手続の場であることは否定しない。しかし、驚くことに、定例日の週3日しか開けない短時間の本会議で、何を議題としていつ開会するかを決める手続には審議より長い時間と労力が費やされている。水面下での政府与党内の調整、与野党の下交渉があり、正規の組織である議院運営委員会理事会で協議され、委員会で手順を正式に決定し、その結果を各党の代議士会に報告し、ようやく本会議になる。本会議を開くまでに順調に進んでも日を跨いで数時間がかかる。それで本会議はすぐに終わってしまう。委員会中心主義とはいえ、本会議は空洞化している。その理由は与野党の関心事は議事の内容よりも手続きを終わらせるための日程に対する駆け引き、つまり、いつ法案を成立させるかの駆け引きで、それが我が国の国会政治の中心となってきたからである。「国対政治」がそれを象徴している言葉である。

委員会審査はまだ内容がある。それでも、前例から見てこの法案は〇時間コースと与野党間で内々に決め、それに応じて各党の質疑時間を配分する。しかも審議を短縮するために、通常与党は自らの質疑時間を大幅に削る。1日最大7時間、定例日は概ね週に2日であるから、計算すれば採決までの日程は自ずからわかる。対決法案であれば質疑時間をあらかじめ決めることは困難となり、野党は参考人質疑をしろ、公聴会を開けなどと要求し審査日程を遅らせようとする。

(続く)

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