令和7年の衆議院の予算審査(審査日程と審査時間)
岸井和
2025.04.23
2024年(令和6年)10月の衆議院総選挙において与党は惨敗し、衆議院の過半数を持たない少数与党政権となった。少数与党政権は1994年の羽田孜内閣以来の30年ぶりのことである。
この事態を受け、当然のことながら衆議院の予算審議も大きく影響を受けることとなった。つまり、予算委員長が野党出身となったことも含め予算審議の過程で与党は譲歩を強いられ、また、最後の採決の場面でいかにして過半数を確保するかは最大の課題となった。
与野党の議論は予算委員会の場だけではなく、党首、幹事長、国対、政調、税制担当など、様々なレベルでの会談協議が頻繁に持たれた(各合意内容に齟齬も見受けられ、自民内のガバナンスに疑問も感じるが)。与党内部の事前の協議・了解が得られれば、予算審議は通過儀礼で最終的には数の力により与党が採決に持ち込むという長年の図式が崩れ、これまでになく予算委員会の議論の内容も注目され、委員会の意思決定の過程が「見える化」された。衆議院において野党の意向も汲んだ修正が行われ、さらに与党が多数を持つ参議院でも修正が行われた。予算の修正は1996年以来であり、参議院での修正は現行憲法下で初めてであった。予算審議は全くもって新しい様相を呈した。
委員会の審査経過概要
令和7年度総予算は1月24日に提出、3月4日に衆議院で修正議決(一般会計予算と特別会計予算の修正、政府関係機関予算は原案のとおり可決)、3月31日に参議院でさらに修正議決(修正は一般会計予算のみ)され、同日衆議院本会議で一般会計予算について参議院回付案に同意して、予算三案は年度内に成立した(回付案は委員会に付託しないのが先例)。
予算審議の入口から安倍派の裏金に関与していた会計責任者の参考人招致を巡り与野党は対立した。これにより、参議院代表質問終了後直ちに行われるのが通例である衆議院予算委員会での提案理由説明は1日遅れた。全会一致で行うのが先例となっている参考人出頭決議は野党の賛成多数で押し切った(与党公明は欠席)。参考人が不出頭の意向を示したため、集中審議が流会になるなど紆余曲折があったが、最終的には国会外のホテルでの聴取となった(2月27日)。
野党の提案により省庁別審査という新しい試みも行われた(2月5日~)。各省を6グループに分け、3日間行われた。「各省が掲げている懸案について専門的な立場から時間をしぼって質疑をする。国会としてのチェック機能を果たしていきたい(安住予算委員長)」との趣旨だが、予算の無駄を排して野党の要求する予算を獲得することを目論んでの対応であった。(これに伴い通常2日程度の分科会は1日に短縮された(日数的には2日間にわたっているが実質的な時間として1日)。)
野党は予算審議を通じて早期に政権を打倒するという戦略的意図を持っていなかった。野党も一枚岩ではなく、仮に政権交代となっても別の少数与党となるだけで、さらには参議院では自公が過半数を握っている。立憲の野田代表は「いたずらに予算を人質にとって衆院の通過を遅らせたり、年度内成立を阻むことはしない(2月17日予算委員会)」と戦略としては政権交代ではなく予算修正であることを明確にしていた。
しかしながら、野党の対応は独自の公約を中心にバラバラに見えた。国民は「103万円の壁」、維新は「高校授業料無償化」に焦点を合わせ、3.8兆円の修正パッケージを示していた立憲も最後には「高額療養費制度の患者負担上限額見直し中止」に的を絞った。各党とも分かりやすくシングルイッシューに特化した。国民に身近な問題で確実な成果を挙げることで今夏に行われる参議院の通常選挙での支持拡大を狙ったのである。
それぞれの要求に対し、与党は相当な時間を割いて協議に応じ、最後は概ねそれらの要求を受け入れざるを得なかった。審議日程への野党の協力が必要であるとともに、一部野党の予算賛成を確保しなければならなかった。結果としては日程に関しては立憲の抑制的な姿勢に助けられ、採決に関しては国民との協議は非課税限度額について首尾が整わなかったものの、高校授業料無償化について就学支援金名目で維新の取り込みに成功したことで予算への賛成多数を確保した。
なお、高額療養費制度については参議院での修正であるが、その歳入減は105億円程度と見込まれ、国家予算全体から見れば少額であり予備費で十分カバー可能であることから、「修正しない」という選択肢もありえたが、世論や野党への配慮から与党は修正の道を選ばざるを得なかった。
予算委員会の審査日数は21日と例年より2日ほど長い。審査時間は、近年の80時間程度から94時間49分へと大幅に増加した(1日7時間として2日分増加している)。一般的質疑(特に省庁別審査の影響)と集中審議が増加したためである。
総理の委員会出席回数は10回と近年の傾向とほぼ同じである。出席時間は56時間31分と、過去13年の平均の53時間37分と比べて若干長いだけである。野党は年度内成立にも協力した。全体としては穏当な委員会運営であったと評価できよう。
早い時期での政権交代や衆議院解散を狙わない戦術のもと、野党は日程闘争や総理の拘束に腐心するのではなく、国民の支持を得られる予算の修正協議や政治と金に焦点を当てていたことになる。背後では立憲の野田代表と安住予算委員長は委員会審査の方針を綿密に練っていたと思われる。その結果、一定程度、熟議の国会、目に見える協議につながることになったが、他国の議会との比較も考えてみれば本来は委員会審査の中でより実質的な修正協議が行われるべきであったのではないか。
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