国会の攻防(29)

国会の攻防(29)

平成24年から令和2年(2012年から2020年)
第二次~第四次安倍政権 ―ねじれの解消と一強政治

特定秘密保護法案、社会保障制度改革推進法案、参議院常任委員長解任決議案可決、平和安全法制

岸井和
2021.05.30

特定秘密保護法案、社会保障制度改革推進法案、参議院常任委員長解任決議案可決(2013年、第185回国会)

夏に行われた参議院通常選挙で大勝し、与党はようやく衆参のねじれから脱した。参議院の構成のための短期間の臨時国会を経て、2013年10月15日からの第185回臨時国会は55日間(延長2日間を含む)の会期の間に重要法案が数多く審議され、会期末には与野党の攻防は泥沼化した。

そもそも野党は9月25日に臨時国会召集要求書を参議院に提出した1)衆議院においては臨時国会召集要求書を提出するための人数要件が満たせなかった。が、総理の外遊日程が終わるまで政府は召集を先延ばしにしていた。衆参ねじれが解消してから初めての本格的な国会であり、政府は安倍色を前面に出し、安全保障会議設置法等改正案、特定秘密保護法案などの安全保障関連法案と産業競争力強化法案、国家戦略特区法案2)国家戦略特別区域法案(内閣提出) 、独禁法改正案3)私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出) などの成長戦略関連法案、さらには社会保障制度改革法案4)持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律案(内閣提出)。民主党野田政権時代の2012年6月に民自公の三党合意で、「今後の公的年金制度、今後の高齢者医療制度にかかる改革については、あらかじめその内容等について三党間で合意に向けて協議する」とされたことを受け、自公政権に代わってから協議が続けられ、2013年10月になってから法案が提出された。、高校授業料不徴収法案5)公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出) などが審議された。このなかで、与野党が鋭く対立する法案は特定秘密保護法案だけであったが、会期は短く日程は窮屈となり、与党の強硬姿勢が目立ち、会期末には参議院で委員長解任決議案が乱発され徹夜国会となった。

特定秘密保護法案は、国家の安全保障にかかわる特に秘密を要する情報を特定秘密とし、秘密の管理、漏洩の罰則などを定めるものである。情報インテリジェンス管理の重要性が指摘される一方で、秘密情報の指定の基準や範囲が曖昧であり、また、国民の知る権利や報道の自由を侵すとして反対する声も大きかった。

117日には衆議院で審議が始まり、25日の福島での地方公聴会では与党の推薦者も含めた意見陳述者7人全員が法案に反対若しくは慎重な意見を述べた。一方で与党とみんなの党の間では19日に、維新とは20日に修正協議が整っており6)最終的に6月25日に自民、維新、公明、みんなの4会派共同提案の修正案が提出された。、26日には特別委員会で強行採決で可決された。とはいえ、野党の反対は過激なものではなく、委員会採決と同じ日の本会議では野党も出席したうえで起立採決により与党とみんなの党などの賛成7)維新は修正案を提出していたものの、議論不十分として委員会、本会議とも採決時に退席した。2013.11.26 日本経済新聞web版で修正議決された。

しかし、参議院では大きな混乱が待ち受けていた。衆議院の民主党は保守系議員が多く徹底抗戦に慎重論が目立ったのに対し、参議院では労組出身者が多く法案成立阻止への気勢は上がった8)2013.12.7 日本経済新聞。それを後押しするように、審議が進むにつれ、国会外ではマスコミ、学者、法曹界、市民団体などが法案に反対、懸念の声を強めていった。さらには、会期末が近づくにつれ、与党は限られた時間内にいくつかの重要法案の成立を図るため強行に国会運営を進めた。

12月4日から参議院本会議での攻防は激化した。野党は時間稼ぎをするため全会一致の条約の採決について押しボタン投票ではなく、時間のかかる記名採決を要求した。その後、与党から突然に暫時休憩の動議が提出され可決された。特定秘密保護法案採決の前提となるさいたま市での地方公聴会を開くためであった。本会議の開かれている間は委員会の活動はできないのが原則である9)参議院規則第37条 委員会は、議院の会議中は、これを開くことができない。但し、議長の許可を得たときは、この限りでない。。与党は前日に強行採決で地方公聴会を行うことを決めていた。その後、夜に再開された本会議は当初予定されていた議案の処理を途中まで行って延会となる。

翌5日午前零時11分からの本会議では、残余の議案の処理を終えた後、野党提出の岩城光英議院運営委員長解任決議案が審議された。特定秘密保護法案の審議を遅らせるためのものであったが、その理由は「…議院運営委員会における強行採決がこれで何度目か、…既に、既に十一回目です。僅か五十三日間で十一回目です。まさに議院運営委員会が開催されるたびごとに強行採決が行われています。…10)2013.12.5 参議院会議録 前川清成議員(民主党)の趣旨説明」と与党の強引な国会運営を非難するものであった。

これが否決されると、対抗して与党は民主党委員長である水岡俊一内閣委員長解任決議案、大久保勉経済産業委員長解任決議案を提出した。理由は、国家戦略特区法案、独禁法改正案の審議を遅延させ、法案成立のための努力を怠ったということである。この二つの解任決議案は与党の多数で可決され、後任委員長には自民党議員が選ばれた11)川口環境委員長解任の時とは異なり、解任後直ちに後任委員長の選任が行われた。
なお、2014年1月22日の自民民主参議院幹事長会談において、民主側から両委員長が委員会を開かなかった謝罪と「今後は公正な運営に努める」との申し出があったため、次国会の冒頭で両自民委員長は辞任し、水岡、大久保とも委員長に再任された。2014.1.23 毎日新聞
。6日には新委員長のもと両委員会の審査が再開され、両法案ともその日のうちに可決した。

民主党はこの両法案には賛成であったが、与党の強引な国会運営に抗議して両委員会を開かなかった12)2014.1.23 朝日新聞。民主の抵抗に対し、与党は委員長の首を挿げ替えてでも法案成立を図った。委員長解任決議案の可決は今回の2例と先の川口環境委員長(国会の攻防(28)参照)の計3例しかなく、歴史的に異例の強硬策であった。委員長解任は議会は与野党の話し合いの場という根本を壊すようなもので、これまでは野党委員長に対しては解任ではなく中間報告という手段を用いてきた。

その後、社会保障制度改革推進法案の審議に先立ち、野党は石井みどり厚生労働委員長解任決議案を提出した。これも独善的な与党寄りの委員会運営をしたことが理由である。野党が要求していた本会議趣旨説明を行わずに法案を委員会に付託し、委員会審査は11月26日から125日の間に5回にわたって行われているが、民主党が終始出席していないままで採決に至った。与党の強引な審議進行だけではなく、もともと民自公の三党合意に基づく法案であったため民主党も責任放棄だ13)民主党は年金や医療、介護制度改革などについて具体性を欠いた内容が不明な単なるプログラム法案であり、審議に値しないと主張していた。民主党は衆議院では反対している。との批判を浴びた。民主党は委員長解任決議案の議事には出席したが、法案の採決は棄権した14)2013.12.6 朝日新聞。5日の本会議は、そのほかの法案を処理した後、特定秘密保護法案を議題とすることを決めて午後10時39分に延会となった。

6日の本会議は午前3時16分に開会した。特定秘密保護法案の担当大臣である森まさこ国務大臣問責決議案が1時間ほどで否決され休憩となる。衆議院において安倍内閣不信任決議案15)同日、衆議院において国務大臣森まさこ君不信任決議案を提出していたが、個別大臣の不信任決議案も包含する内閣不信任決議案が提出されたことで、森大臣不信任決議案は審査の対象でなくなった(未決となった)。平成29年版衆議院先例集柱171「内閣不信任決議案が提出された後は、個々の国務大臣に対する不信任決議案を提出することができない」を審議するためである。民主党は衆参で連携して時間稼ぎをする方針であったが、衆議院本会議は午後7時32分から1時間で終わってしまった16)内閣不信任決議案の審議の前に、衆議院では参議院審議の状況を踏まえて二日間の会期延長(12月7日と8日)が決められていた。参議院は会期延長の議決はしていないが、衆議院の優越により衆議院の議決が国会の議決となっている(国会の召集と会期(5)参照)。。不信任決議案の採決について、衆参の意思の齟齬、野党内の足並みの乱れから記名採決を要求するための人数要件を満たすことができず、起立採決となってしまったからである17)2013.12.7 日本経済新聞。内閣不信任決議案が起立採決となったのは、三木内閣(1975年)、鈴木内閣(1982年)に次いで三例目であった。

午後9時過ぎに再開した参議院本会議では、前日に強行採決を指揮した中川雅治国家安全保障に関する特別委員長問責決議案が否決され、ようやく本題の特定秘密保護法案が議題となり可決された。ここで午後11時24分に延会となる。まだ、与党としては野党委員長を解任してまでも成立させたい独禁法改正案、国家戦略特区法案が残っていた。しかし、委員会の成り行きはともかく、この両法案は民主党は賛成であり7日未明の本会議は20分程度で終了し、両法案も可決、成立した。三泊四日の参議院本会議が終わった。

平和安全法制(2015年、第189回国会)

平和安全法制は、これまで違憲とされてきた集団的自衛権を限定的に認め、日本の存立の危機に関わる事態が生じた場合は、それが他国への攻撃であっても日本の武力行使を認めるものであり、国際環境の変化に伴い日米安保体制下の抑止力を強化し紛争を未然に防止することを目的とするものであるとして提出された。他方で、存立危機の定義が曖昧で他国の紛争に巻き込まれる戦争法案だなどの野党の批判が激しかったばかりでなく、憲法学者や法曹界などは集団的自衛権を認めることは憲法違反であると抗議し、市民団体は街ではデモを繰り広げ、法案に賛成の世論調査の数字も低かった18)安全保障関係の世論調査は「戦後日本の安全保障法制の展開と世論(山本健太郎 2016.4 国立国会図書館調査及び立法考査局レファレンス)」に詳しいが、反対が賛成に倍くらいの差をつけ過半数を占めていた。また、政府の説明不足を指摘する意見が7、8割と圧倒的となっていた。。同時期に開かれていた衆議院憲法審査会の参考人質疑でも与党推薦の参考人まで平和安全法制は違憲だと主張し19)2015.6.4 衆議院憲法審査会 長谷部恭男参考人(早稲田大学法学学術院教授、自公推薦)の発言、混乱に拍車をかけた。

単に反対が強いだけではなく、存立危機事態などの様々な事態の区分が複雑で、担当大臣の答弁も混乱しており、5月26日に始まった衆議院の特別委員会での審査は、委員会21回、公聴会1回、地方参考人会1回の長期間、長時間に及び、7月15日に混乱するなか与党の強行採決により可決された。しかし、翌日の本会議は不信任決議案等が提出されることもなく、1時間ほどで起立採決で議了した。混乱したのは、またもや参議院であった。国会の外では戦争法案反対の声は次第に高まっていき、野党はその声に応えざるを得ない。

参議院の特別委員会では、97時間27分の審査を経て、9月17日の午後4時半過ぎに、特別委員長不信任案を否決したのち、法案を直ちに採決した。議場は騒然とし、採決の議事録はとれていない。本会議は同日の午後8時11分に開会した。

まず、中川雅治議院運営委員長解任決議案から始まった。一昨年の特定秘密保護法案の時に続いての中川委員長である(前回は特別委員長問責決議案)。与野党の合意もなく平和安全法制審議のための本会議会を無理やり職権でセットしたことを理由とする。解任決議案が否決されたのち、1度休憩を挟んで、本会議は延会となる。

18日の参議院本会議は長丁場となった。日付を跨いですぐに本会議が始まり、法案を所管する中谷元国務大臣問責決議案、山崎正昭議長不信任決議案、安倍内閣総理大臣問責決議案、鴻池祥肇我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員長問責決議案と4件の決議案が審議され、それに付随してそれぞれに発言時間制限の動議が提出・採決されたため、都合8回の記名投票が繰り返された。各1時間から3時間程度かかっている。この途中では、衆議院に安倍内閣不信任決議案が提出され、民主党の枝野幹事長が趣旨弁明に2時間ほどの長時間演説を行ったため(衆議院では発言時間を制限していなかった)トータルで3時間半ほどの本会議となった。参議院本会議は午後11時過ぎに延会となっている。

3日目の19日午前零時11分からの本会議は法案の審議を残すのみであった。世論の後押しは大きかったものの、会期終了日は27日で、野党もそこまで頑張るだけの材料も体力もなかったであろう。発言時間の制限の動議を可決後、法案の委員長報告、各党の討論、記名採決が行われ、午前2時過ぎに野党一致しての反対法案は可決・成立することとなった。

脚注

脚注
本文へ1 衆議院においては臨時国会召集要求書を提出するための人数要件が満たせなかった。
本文へ2 国家戦略特別区域法案(内閣提出)
本文へ3 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出)
本文へ4 持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律案(内閣提出)。民主党野田政権時代の2012年6月に民自公の三党合意で、「今後の公的年金制度、今後の高齢者医療制度にかかる改革については、あらかじめその内容等について三党間で合意に向けて協議する」とされたことを受け、自公政権に代わってから協議が続けられ、2013年10月になってから法案が提出された。
本文へ5 公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出)
本文へ6 最終的に6月25日に自民、維新、公明、みんなの4会派共同提案の修正案が提出された。
本文へ7 維新は修正案を提出していたものの、議論不十分として委員会、本会議とも採決時に退席した。2013.11.26 日本経済新聞web版
本文へ8, 本文へ17 2013.12.7 日本経済新聞
本文へ9 参議院規則第37条 委員会は、議院の会議中は、これを開くことができない。但し、議長の許可を得たときは、この限りでない。
本文へ10 2013.12.5 参議院会議録 前川清成議員(民主党)の趣旨説明
本文へ11 川口環境委員長解任の時とは異なり、解任後直ちに後任委員長の選任が行われた。
なお、2014年1月22日の自民民主参議院幹事長会談において、民主側から両委員長が委員会を開かなかった謝罪と「今後は公正な運営に努める」との申し出があったため、次国会の冒頭で両自民委員長は辞任し、水岡、大久保とも委員長に再任された。2014.1.23 毎日新聞
本文へ12 2014.1.23 朝日新聞
本文へ13 民主党は年金や医療、介護制度改革などについて具体性を欠いた内容が不明な単なるプログラム法案であり、審議に値しないと主張していた。民主党は衆議院では反対している。
本文へ14 2013.12.6 朝日新聞
本文へ15 同日、衆議院において国務大臣森まさこ君不信任決議案を提出していたが、個別大臣の不信任決議案も包含する内閣不信任決議案が提出されたことで、森大臣不信任決議案は審査の対象でなくなった(未決となった)。平成29年版衆議院先例集柱171「内閣不信任決議案が提出された後は、個々の国務大臣に対する不信任決議案を提出することができない」
本文へ16 内閣不信任決議案の審議の前に、衆議院では参議院審議の状況を踏まえて二日間の会期延長(12月7日と8日)が決められていた。参議院は会期延長の議決はしていないが、衆議院の優越により衆議院の議決が国会の議決となっている(国会の召集と会期(5)参照)。
本文へ18 安全保障関係の世論調査は「戦後日本の安全保障法制の展開と世論(山本健太郎 2016.4 国立国会図書館調査及び立法考査局レファレンス)」に詳しいが、反対が賛成に倍くらいの差をつけ過半数を占めていた。また、政府の説明不足を指摘する意見が7、8割と圧倒的となっていた。
本文へ19 2015.6.4 衆議院憲法審査会 長谷部恭男参考人(早稲田大学法学学術院教授、自公推薦)の発言

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