委員長手当(議会雑費)の廃止

 

委員長手当(議会雑費)の廃止

岸井和
2023.06.21

委員長手当の廃止がようやく決まった。第211回常会の会期終了日、2023年6月21日に参議院で委員長手当廃止法案(歳費法改正案等)が可決成立した。

委員長手当は歳費法で定められており、議長、副議長、事務総長、常任委員長、特別委員長などに対し、国会開会中に限り日額6000円を支給するものである(「国会のコスト(6)」参照)。平日休日問わず支払われ、非課税の手当である。2022年ベースの単純計算でも1人当たり年間に130万円超、衆参両院トータルで8000万円超が支払われていたことになる(報道では両院合計5000万円の削減とされているが、この金額は年間会期が150日間を前提としている実際には会期は200日を超えるのが通常であり、この場合、(正副議長、事務総長の支給分を除いて)削減額は7000万円超となる。)

今回の委員長手当廃止では、なぜかしら正副議長、事務総長の手当だけ残された。委員長と比べて手当を支払うだけの忙しい仕事をしているということになろうが、理解に苦しむ。先に維新の提出していた法案をそのまま転用したためらしいが、それでも議長は交際費も持っており全体としての整合性に欠ける。衆参ともに質疑もなく成立したため、その理由は明らかにされていない。

委員長手当に対する批判は長らくあった。すでに2005年ころからは、共産が特権的な制度であるとして委員長手当に毎年議院運営委員会で反対している。しかし、小会派の共産の意見は無視され続けてきた(共産も強硬には廃止を訴えなかった)。

委員長手当の問題点は、そもそもの手当としての性格が意味不明であることにある。1949年に委員長手当が導入された際の説明は以下のとおりであった。
「…常任委員長等の便宜のために、自動車の御使用を願つて、委員会等でもご利用を願つておるわけでありますが、その自動車の運転手等に、御自分でチツプその他をおやりにならなければ、現実の面で御不便を来しておるわけでありますので、そういうことにお願いしておるわけでありますが、それだけではとうていまかないかねる場合もあるのであります。…国会の開会中に限りまして、予算の範囲内で議会の雑費を受けるという形にお願いをいたしまして、これらの諸費用に充てていただきたいという意味で、各議院の役員及び特別委員長ということにしていただきたい、こういうことであります、但しその金額は日額二百円を越えてはならないという限度を設けまして、この一条を入れてもらいたいというのが(歳費法)八条の二であります。」(1949.11.30衆議院議院運営委員会における事務総長の説明)

要領を得ない説明ではあるが、要は委員長らが払っている運転手へのチップなどの諸費用に充てるために議会雑費を支給するということで、特段の意見も反対もなく決定された。当時の運転手もわずかな給与しかもらっていなかったから多少のチップは必要だったかもしれない。戦後の経済的困難な状況を前提としつつ、地位の向上した国権の最高機関の議長や委員長等は雑費くらいの手当をもらって当然と考えられたのであろう。しかし、経費ではなく雑費としたことで、この金銭支給の性格は曖昧なものとなり、手当とも称することで委員長等の小遣い的なものとなってしまう。この小遣いは当然のものとして誰からも疑問やクレームがつくこともなく長年にわたり支払われ続けた。

しかしながら、自社55年体制が崩壊すると、次第に議員特権に対する批判の声が強まってくる。社会構造の変容に伴って議員の諸経費についての見直しの議論が高まっていった。2001年には衆議院議長の諮問機関である「衆議院改革に関する調査会」が議員歳費の日割り支給、旧文通費の使途公開などの提言を行った(のちに歳費の日割り支給は実現し、文通費の使途公開はいまだ実現していない(「国会のコスト(3)」、「ここが変だよ文通費」、「文通費と国会審議」参照))。この提言には含まれてはいなかったが、議員の諸経費問題として最も見直しを行いやすいのは委員長手当の廃止であった。委員長手当の支給理由が曖昧で、委員長の職務が他の議員と比してそれほど過重なのか疑問があり、何よりも影響を受ける議員の数が少ないからである。共産の委員長手当廃止の主張もほぼこの頃から始まっている。

それでも、遅々として議論は進まなかった。委員長等の職を多数出している自民は本気で廃止を実現する様子は見られなかった。民主政権の時代、2012年には与党議員提出の議員立法として委員長手当廃止法案が提出され衆議院を通過した(2012.11.15 民主、国民新、公明、共産が賛成)。財政状況や国民世論からして政治家が自ら身を切る改革をする必要があるとの理由であった。ただ、手当廃止法案は解散(11月16日)前日の朝になって突然提出され、議論をする間もなく委員会、本会議と立て続けに強行された。自民少なくとも表向きには内容には反対していなかった。だが、民主が然るべき手順を踏まずに解散直前に駆け込みで採決に進んだのは議会の姿勢としては無理があり、民主の選挙対策と言われても仕方がない。参議院では議論されずに解散により廃案となった。

その後、委員長手当廃止の議論は下火となるが、維新が国会で勢力を増してくると共産とともに廃止を執拗に求めるようになる。維新は議員の経費削減を党の基本政策の一つの柱とするようになり、審議はされなかったが廃止法案を提出していた。衆議院の委員長手当に関する議論は闇に隠れてしまってほとんど見るべき点はないが、参議院の維新の追及は次第に厳しさを増していった。

2018年1月19日の参議院議院運営委員会の維新の東徹議員の質疑は以下のようなものであった。

東徹君 …次に、議会雑費についてお伺いいたします。平成二十八年度の議会雑費、これは委員長になると手当が付くわけですね、一日六千円で。土曜日も日曜日もこれ付くわけですけれども、この議会雑費、委員長手当というのか、これについては一人当たりの金額をお示しいただきたいと思います。
事務総長(郷原悟君) お答えいたします。議会雑費につきましては、国会開会中に国会役員等に日額六千円を支給しております。
東徹君 日額六千円ということだと、一人の方に対してはどれだけの金額になるんですか、会期中全部足すと。
事務総長(郷原悟君) 単純に六千円を平成二十八年度の開会日数二百十九日を乗じますと、一人当たりの支給額は百三十一万四千円となります。
東徹君 この議会雑費も、今、国の財政も地方の財政も同じように厳しいです。地方議会ではこういった議会雑費もなくしていっていますよ。なくしていっています。本当にこれ、なかったら駄目なんですか、なかったらやってくれないのかと、そういうふうに思うわけでありまして、是非こういったものも見直すべきというふうに思っておるんですが。例えば国際経済・外交調査会、これ何回、何時間開かれたか、お伺いいたします。平成二十八年度で。
事務総長(郷原悟君) …  三回、常会、臨時会、臨時会とありましたので、トータルいたしますと、開会回数が六回で総時間は七時間二十六分になります。
東徹君 分かりました。六回で七時間二十六分。まあ、それでも七時間二十六分ですから、時給にしたら相当な手当になるのかなというふうに思います。今、国の財政状況が厳しい、地方議会の財政状況が厳しい、そういった中でやっぱり改革していっているわけですね。だから、やっぱり国民の納得が得られるようにしていくべきだというふうに思いますので、是非こういうことについて検討していただきますようによろしくお願い申し上げまして、私からの質問とさせていただきます。

委員長手当について公開の場で議論されたことは画期的なことでもあった。これまでは、与党も野党も国会議員の処遇に関する事項に関しては表で議論しないことがほとんどであった。事務局も公開の場で質問の矢面に立つことを嫌い裏の場面で説明をして回った。結果として議論は水面下にとどまるか、あるいは「懇談」という秘密会のような形で表には出てこず、表の議院運営委員会は実質的内容の分からない形式的なものと化した。それは議員待遇の問題点が表面化せず闇に包まれたまま存続する一つの原因ともなった。

今回、委員長手当廃止となったことは、それなりに評価できることである。しかしながら、廃止に至る経過は国対政治そのものであり明かではない。委員長手当廃止については、時代の流れから世論としても国会内の雰囲気としても受け入れざるを得ない状況となってはいたが、それでも歳費法を所管する議院運営委員会での議論の俎上にしばらく乗っていなかった。今国会の会期末が近づいた6月12日に自民と立憲の国対委員長が「国会内で会談し、委員長手当を廃止する方針で一致した」。非公開の席で突然に合意したのである。会期の初めから合意はできたはずなのに、何が理由で会期末にまで時間がかかったのか。自民と維新は少なくとも今年の2月には合意していた。今国会だけは手当を支払ってやろうという狡い考えなのか。サボっていた自民が会期末になって維新に急き立てられて慌てて進めたのか。そもそも10年以上前に合意可能であったと思われるのになぜここまで結論が出なかったのか。表向きは賛成と言ってはいても内心では気乗りしない問題であり協議を進めない、お互いに責任の所在を追及しないまま結論を先送りする、与野党阿吽の呼吸の互恵関係であり、それは密室で行われる国対政治の成果であろう。それでも廃止に至ったのは、勢力を伸長させつつある維新が妥協を排して粘り強く主張し続けた功績であろう。

自民立憲の合意の翌日の6月13日、自民は衆議院議院運営委員会理事会で委員長手当廃止を正式に提案した。非公式な国対で決まったことを公式な議運で手続きを踏んだ、あるいは残務処理を任されたということである。その後、20日に衆議院議院運営委員会で委員長提出されて同日に衆議院通過、そして冒頭に述べた通り翌21日に参議院で成立した。

とはいえ、本丸は旧文書通信交通滞在費(調査研究広報滞在費)の改革である。旧文通費についても2月に自民維新両党の間で国会で協議をすることで合意しているが、その後の協議は行われていない。影響の大きい旧文通費の改革を避けるために委員長手当を廃止して胡麻化したとさえもとれる。


<参考>シリーズ「国会のコスト

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