国会のコスト(7)

議員の歳費、手当と国会のコスト(7)
― 廃止された手当等、公設秘書

岸井和
2019.10.07

9.国会議員に関わる手当等で廃止されたもの

(1)憲政功労年金

1954年(昭和29年)に制定された憲政功労年金法の「国会議員として五十年以上在職し、かつ、憲政上特に功績顕著なものとして、衆議院又は参議院において、表彰の議決があつた者には、終身、功労年金を支給する」との規定に基づき、当初は年額100万円を、1987年(昭和62年)からは500万円を功労年金として与える制度である。2002年(平成14年)に法律が廃止された。前年の与党三党国会改革推進協議会の報告、衆議院改革に関する調査会の答申においても、憲政功労年金や永年在職議員特別交通費、肖像画の廃止が掲げられていた。

(2)永年在職表彰議員特別交通費

特別交通費は1975年(昭和50年)に創設され、国会議員として25年以上在職し、院議をもって表彰された議員に対し、月額30万円の交通費を支給する制度である(創設時は20万円、昭和56年から25万円、平成3年から30万円)。2002年(平成14年)に歳費法が改正され、憲政功労年金と同時に廃止された。これとともに、法規上の規定がなかった永年在職議員の肖像画製作費の100万円の公費負担についても取りやめることとなった。その後も、経済的特典は伴わない表彰制度は残され、肖像画については自己負担で制作の上、院内に掲額することは認められる。

(3)議員互助年金

国会議員の互助年金制度は、1958年(昭和33年)に導入された。国会法36条には「議員は、別に定めるところにより、退職金を受けることができる」と規定されていることから、退職金を年金として受け取る制度を作ったものである。しかし、国会議員の互助年金制度は制度設計があまかった。制定当初は互助による拠出制であり議員の納付する掛金で収支を賄うこととなっていたが、次第に公費負担分が増加し、しかも受給額が高いため批判が強くなっていった。2005年(平成17年)には両院議長から諮問を受けた「国会議員の互助年金等に関する調査会1)座長 中島忠能前人事院総裁」が制度の改革を求める答申を提出した。現行制度をそのまま維持することはできないが、一般国民とは別の独立した制度として、相当額の年金給付を保障する議員年金制度を再構築する方向であったが、小泉首相のツルの一声で2006年(平成18年)に一転して互助年金廃止となった。

当時、一般国民の年金制度改革を進める中で、国会議員の国民年金保険料の未納や国民年金への未加入問題が表面化し、国会議員の特権的な年金制度に対する批判が殊更強まりを見せていた。この批判の論点は多々あったが、最短の受給資格年数が10年と短いこと、給付水準が高いこと(退職時期により異なるが、例えば、在職10年でも年額412万円の給付となり、掛金分(毎月歳費月額の10分の1)が3年で回収できる)、国庫負担率が7割を超えていることなどの議員優遇に対するものであった。こうした世論への対応として互助年金法の廃止が決まった。

そもそも互助年金を創設した趣旨目的が不明確なことも問題であった。議員にとってなぜ年金制度が必要であるかの明確な説明がなければ単なるお手盛りとしか受け取られない。前記調査会の考えによれば、国会議員がその職責を果たすために、憲法及び国会法等によって一定の特典と相応の処遇が与えられており、議員年金も議会制民主主義の維持に必要不可欠なコストである。しかしながら、結論的には、調査会の立てた議員年金の必要性の説明よりも、議員年金は一定の特典や相応の処遇を越えた特権であるとの認識の方が大きな流れになったということであろう。議員の身分の不安定さなどを理由に議員年金の復活の話は水面下で繰り返されているが、その理念と制度設計の両面において相当の説得性がなければ容易ではない。

議員年金廃止に伴う経過措置があり、既受給者や法律が廃止された時点で受給資格を得ていた議員は、減額にはなったものの、引退後65歳になると互助年金は支給される。当分の間、現職議員の掛金がないためすべて税金で支払われることになる。これに対する強い批判もあるが、まったくの廃止、支給停止となると生活上の問題、財産権の侵害という問題にもなる。

10.国会議員の公設秘書

国会議員には、国会法の規定により、職務の遂行を補佐する秘書2人を付すとともに、主として議員の政策立案及び立法活動を補佐する秘書1人を付することとなっている(132条)。この3人を総称して公設秘書、それぞれを第一秘書、第二秘書及び政策秘と呼んでいる。政策秘書には試験や経験、一定の資格を持つなどの要件が必要である。秘書は特別職の国家公務員であるが、採用は各議員に任されている。他方、秘書給与法2)国会議員の秘書の給与等に関する法律により、採用時に65歳以上でないこと、当該議員の配偶者ではないことが定められるとともに、議院運営委員会理事会申し合わせにより20歳以上であること、日本国籍であること等が求められている。それぞれの給与は給与表によって、勤務年数に応じて決められる(特別職の職員の給与に関する法律、国会議員の秘書の給与の支給等に関する規程)。

したがって、公設秘書の個人ベースの年収は約550万円~約1,100万円となり人により大きな差が出るが、公設秘書の給与のみならず、その各種手当、厚生経費等の年間の総額をみると、衆議院で約148億、参議院で78億円、合計で226億円程度である3)平成31年度予算ベース。これを両院の国会議員数(710人)で除すると、議員1人当たりの秘書にかかる経費は平均して年間約3,180万円となる。

これは、議員個人に支給されるものではなく、国として各秘書等に支払う金額である。与党三党の国会改革推進協議会の報告書にもあるように、各議員1人当たりの事務所経費の金額を決め、その範囲で秘書の給与等を支払うという総額一括方式も考えられる。この方法によれば、一般的に私設秘書と公設秘書との給与格差がみられる中、議員にとっては3人の公設秘書のみならず、秘書全員の給与を平準化してより多くの秘書を雇用することも可能となる。議員の方はこの総額一括方式を望む声が多いが、公設秘書の側からは長年の歴史の中で秘書を公設・公務員とすることで雇用関係の不安定な秘書の身分の向上につながってきたことから、現行制度を維持すべきだとの意見が強い。

(続く)

脚注

脚注
本文へ1 座長 中島忠能前人事院総裁
本文へ2 国会議員の秘書の給与等に関する法律
本文へ3 平成31年度予算ベース

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