議員歳費の削減 手当と国会のコスト(付)
─ コロナ・ウィルスと歳費削減
岸井和
2020.04.27
今回の歳費削減の経緯
第201回常会の2020年4月27日、「国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律の一部を改正する法律案」がわずか1日のスピード審議で衆参両院で可決、成立し、2020年5月から21年4月までの1年間、議員歳費を2割削減することとなった。
歳費は月額1,294,000円から1,035,200円となる。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、日本経済に深刻な影響が出ていることを理由とし、この期間で議員1人当たり歳費のみ約310万円の削減となる(期末手当は削減の対象とはなっていない)。衆議院解散等の変動要素を考慮せず、単純に定数を当てはめて計算すると、衆参両院で22億円強の削減となる。
歳費削減は4月14日の自民と立憲の国対委員長会談後にその方向性が明かされた。会談後に両国対委員長からは「国会も国民と気持ちを一緒にすることが大事だ」、「我々自身が範を示す」等の発言があったと報じられたが、2割削減の根拠については何ら触れられていない。他方、前日の国対委員長会談では、人との接触の機会を減らすため、登院する議員を最低7割、極力8割削減し、1日に開会する委員会の数も絞り込むこととした。
国会外での議員活動もあるのであろうが、国会に来ることを7、8割減らして、歳費の削減は2割というのは、直感的にも合点のいく話ではない。
歳費削減の根拠?
国難に直面し、国民と痛みを分かち合う形で歳費の削減を行ったのは今回が初めてではない。
別表2のとおり2010年に議員歳費の月額が現行の1,294,000円になって以降、2011年3月に発生した東日本大震災の復旧・復興に資するため、あるいはそれに付随する財政状況等に鑑み、期間限定で歳費削減が行われている。
1度目は震災発生の翌月から半年間(2011年4月から9月)歳費月額を一律50万円削減した。2度目は2012年5月から歳費を12.88%削減し、同年11月からはさらに歳費削減幅を20%に拡大し2014年4月まで継続した。議員の歳費月額は法律で定められているため、これらの歳費削減は法改正を伴うものであるが、いずれも質疑がないので、削減幅の根拠は明らかではない。なお、前回の歳費2割削減の際には期末手当も削減対象となっていたが、今回は期末手当は対象外である。これまでと扱いを違えた理由は明らかではない。
今回の改正にあたっては、参議院では累次にわたって参法として議員歳費2割削減法案を提出1)2017年(第193回常会、第195回特別回)、2018年(第197回臨時会)、2019年(第198回常会、第200回臨時会)、2020年(第201回常会)に提出し、法案名はいずれも国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律の一部を改正する法律案。維新案については、歳費削減の期間を1年間で区切っておらず「当分の間」としており、期末手当も削減の対象になっている。している維新から、維新案も対案として審査すべきだとの要望があり、同種の法案として初めて質疑が行われた。結果的に維新以外の会派は質疑せず質疑時間も10分だけであったが、今まで裏で話をつけて公の場面で議論をしてこなかったことを考えれば大きな進歩であろう。
思うに、議員歳費の削減と新型コロナウィルス拡散防止は本質的には関係ない。削減自体も2割という数字も根拠がない。現時点では、ウィルスの蔓延阻止が最大の課題であるが、それに歳費削減をつなげて考えることは感情論であろう。感情論であるだけに、一部野党やマスコミからは歳費を5割削減すべきとか、文書通信交通滞在費の削減をもすべきだとのより感情的な議論も聞こえてきた。
しかし、今回の議論では歳費を削減するとはなっても文書通信交通滞在費(月額100万円)削減については俎上にすら上がらない。感染拡大防止の観点から人との接触を減らすために議員の活動量が減ったのはやむを得ないことだが、それならば活動経費の費用弁済という名目で非課税となっている文書通信交通滞在費を削減してもいいのではないか。
国会は何をなすべきなのか?
歳費削減は日本独特の感情的対応なのか。海外主要国では新型コロナに対応して議員の歳費を削減するという話にはなっていないようだ。議会を休会としている米国は歳費は変更されていない。英国議会では、もともと決まっているルールに従って4月から議員歳費は引き上げられた!2)英国下院議員の年間給与額は本年4月に£79,468から£81,932に引き上げられている。他国を見ても新型コロナ対策と歳費削減とを結び付けて考えてはいない。
表面的には歳費削減は、多くの議員からしてみれば、深刻な問題であり、評価されこそすれ批判されるような話ではなかろう。しかしながら、必ずしも国民から好意的に受け入れられていない。その理由を考えると、2割という削減幅が少ない、なぜ期末手当は削減しないのかという批判もさることながら、そもそも国会議員の歳費や経費が多額に上り不透明だという一般的不信感、それとともに付焼刃的な歳費削減といったポピュリズムへの嫌悪感が背景にあろう。しかし、それにも増して、現状としては、国会が新型コロナ対策をもっと積極的に、実効性のある形で、しかも迅速に行ってくれとの国民の切実な思いがあるにもかかわらず、今の国会が政府の施策の追認をするのみで国民の思いに能動的に対応できず、果たして十分に機能しているのかという根本的疑問を感じているからであろう。
まずは国会が真摯に新型コロナ対策に取り組むことが重要である。国民が健康の恐怖と経済的不安に怯え、日常生活の忍耐を強いられているなか、国会議員の特権意識が作用し、よもや国会議員がPCR検査を優先的に受けられ、陽性となった場合には優先的に入院措置をとれるような方策を裏で考えているようなことはあるまいと信じたい。困惑する国民に対し国会発の具体的支援策を見せてもらいたい。国会への信頼が問われる時である。
今般の議員歳費2割削減を受け、議員の歳費、手当と国会のコスト(3)を追記した。コラム「黄金の手当 文書通信交通滞在費」も併せて御参照頂きたい。
コメント