国会のコスト(1)

国会議員の歳費、手当と国会のコスト(1)
― 国会議員1人当たりのコスト

岸井和
2019.08.22

1 国会運営に関わるコスト

国会に関わるコストは金額が可視的であるがゆえに、国民の議論の対象として非常にわかりやすい。2019年度の予算ベースで、衆議院では約736億円、参議院では約489億円、合計で1,225億円の経費が国会を動かすために使われる1)平成31年度国会所管予算書による。このほか、国立国会図書館の平成31年度予算は約273億円となっている。。1日当たり3億3600万円ほどである。

この多額な経費は、国会議員に支払われる歳費、文書通信交通滞在費、立法事務費、JRパス代金等、議員会館や議員宿舎の建設費・維持管理費、国会の施設の整備費、議案や会議録をはじめとする文書等の印刷費、国会職員や議員秘書の給与等、その他国会の活動に必要な経費、光熱費、自動車経費など、議会の審議を機能させるためのものだけではなく、その周辺的な機能を維持するためのさまざまな項目からなりたっている。これらは国会の予算として計上されているものであるが、これ以外にも総務省所管の国費から支払われる政党交付金2)政党交付金は2017年の実績で、総額約317.7億円である。(平成30年総務省報道資料による) 選挙関係の費用3)選挙にかかる費用は2017年の衆議院総選挙の際で約596.8億円、2016年の参議院通常選挙で約528.5億円であった。(総務省平成30年度行政事業レビューシートによる) 多額に上る。

議会制民主主義を維持していくためのコストというものは当然必要となるが、そのコストが大きすぎるのではないか、本当に必要なコストなのか、コストを下げる余地があるのではないか、といった声は常に存在する。税金の使い道に敏感な世論は常に批判的であり、批判に抗しきれなくなった手当や便益については廃止や縮減される方向にある。これまでに、議員互助年金や永年在職議員の特典(交通費、肖像画代)、憲政功労議員の年金などは廃止されている。廃止縮減が明らかに当然なものもあるが、世論に敏感な政治であるから一般の感情的な意見も斟酌し、自分たちの利害も内心では考慮しつつ、コスト全体の適否とともに、個々の手当や便益の妥当性について総合的に判断してそれらの妥当性を考えていくという困難な作業を伴う。問題が困難となる理由は客観的基準を定めがたい要素が多いからである。単にコストが低ければいい、という問題でもない。  

例えば、そもそも国会議員が多すぎるという批判もある。衆議院議員は2017年(平成29年)に10人削減されたが、参議院議員は1票の格差是正に伴い2019年(令和元年)から3人、22年(令和4年)からさらに3人増員される。参議院の増員に対し、世論からの批判を受け、選挙法改正の際に参議院全体の経費の節減について検討を加えるとの附帯決議が行われた。この一つとして、参議院では、まず3人増える分の金額を全議員で少しずつ負担しましょうということで、2019年(令和元年)に1人当たり77,000円を月々の歳費から国庫に自主返納できる法律を成立させた。法律で定めないと、寄付行為となり公職選挙法違反となってしまうからである。仮に参議院議員が全員返納すれば年間で2億2,600万円程度捻出できることになる。

しかし、国会議員の人数は、国土の広さや都道府県の数、人口、あるいは他の国の議員数からみて、どれくらいが適正規模であるかを判断するのは容易なことではない。1議員あたり何人の国民を代表しているのが適正なのか、1票の格差をどう調整するのか、ある県から1人も議員が選ばれないのは問題があるのではないのか、など検討すべきことは多々あり、即座に回答は得られない。お金のことだけを言うのならば参議院を廃止するのも一つの方法かもしれないが、議会制度全般の検討もしなくてはならない。したがって、ここでは議員数の問題については触れずにおく。

国会議事堂

 

2 国会議員1人当たりにかかる歳費、手当等の概要

議員1人あたりにかかる経費は、歳費、文書交通通信滞在費(文通費)、立法事務費、鉄道パス等とそれぞれの議員が3人まで雇用できる秘書(政策秘書、第一秘書、第二秘書)経費の総額であり、金額は約7,500万円となっている。(つまり、前述の参議院議員返納額2億2,600万円はちょうど3人分に当たる。)

これの内訳を一覧表で示すと以下のとおりである。

表1 日本の議員1人の経費(2019年度)

歳費

2,181万円

文通費

1,200万円

立法事務費

780万円

鉄道パス等

約190万円

秘書関係

約3,180万円

合計

約7,531万円

【歳費】129.4万円/月×12+628万円(期末手当)=2,181万円

【文通費】 100万円/月×12か月=1,200万円

【立法事務費】 65万円/月×12か月=780万円  【議員個人ではなく所属する会派に支給される。】

【鉄道パス等】 衆議院の年間総予算額約9億円を議員数465人で除したもの。鉄道パスのみ、鉄道パスと航空券、航空券のみの選択であり、選択によって各議員で費用が異なるが、全衆議院議員の平均値を算出。 

【秘書関係】 衆議院及び参議院の秘書給与、期末・勤勉手当、通勤手当、住居費、厚生経費、保険料の総額約226億円を議員数710人で除したもの

 

1人あたり、約7,500万円という金額をどう評価するか。国会議員の職責の重大性からして当然とみるのか、一般庶民の感覚からして金額が大きすぎるとみるのか。職責の重大性は論理的に金額には直接結びつかないし、庶民の感覚という感情的な視点からのみ判断するのも合理的説明を放棄している。さらに、国会議員も本音と建前の間で揺れている。歳費や諸手当の成り立ちや使途などを考えつつ、金額そのものの算出は困難だとしても、これらの合理性あるいは不合理性を判断しなればならない。

(続く)

脚注

脚注
本文へ1 平成31年度国会所管予算書による。このほか、国立国会図書館の平成31年度予算は約273億円となっている。
本文へ2 政党交付金は2017年の実績で、総額約317.7億円である。(平成30年総務省報道資料による)
本文へ3 選挙にかかる費用は2017年の衆議院総選挙の際で約596.8億円、2016年の参議院通常選挙で約528.5億円であった。(総務省平成30年度行政事業レビューシートによる)

コメント

タイトルとURLをコピーしました