衆議院議長とは?―国権の最高機関の長とは何なのか?(10) 

衆議院議長とは?―国権の最高機関の長とは何なのか?(10)

岸井和
2022.02.07

3議長は何をしているのか
 (1)国会の役員
 (2)議長の職務権限
  ①議長の諮問機関
   ⅰ議院運営委員会
   ⅱ議会制度協議会
   ⅲその他の議長の諮問機関
  ②議院の代表
   ⅰ国会の開会式
   ⅱ宮中関連行事
   ⅲその他の公的行事
   ⅳ議長外交
   ⅴ皇室会議、皇室経済会議の議員

3議長は何をしているのか

(1)国会の役員

議長は国会の役員である。「両議院は、各々その議長その他の役員を選任する(憲法58条1項)」とされる。国会法には「各議院の役員は、左の通りとする。一議長 二副議長 三仮議長 四常任委員長 五事務総長(16条)」とある。仮議長は正副議長にともに事故ある場合に臨時に選任される(22条)。特別委員長は役員ではない。これは特別委員会が必要に応じて会期ごとに設置される常設の機関ではないためと考えられる(しかし、特別委員長の職務内容は常任委員長と変わることなく、また、特別委員会には毎会期設置される常設的なものもあるものの、常任委員長は本会議で選ばれるのに対し、特別委員会での互選による点が異なる)。事務総長は「各議院において国会議員以外の者からこれを選挙する(27条)」とされ、国会議員ではないが国会役員とされている。

憲法は議院の人事に関する自主性を規定したものであり、国会法では誰が役員であるかが規定されているが、役員という用語からはその権能は明確ではない。つまり、国会法において各役員の本会議や各委員会に関する職務内容についてはある程度規定されているが、役員として議院という機関全般に関わる機能については規定されていない。議院を機能させるような役員会議のようなものは存在せず(会期を決める時には常任委員長会議が開かれる(衆院規則20条1項)が役員会議ではないし、実質的にはこの場では何も決めることはない)、役員が合議機関として活動することはない。開会式では役員は天皇をお出迎え、お見送りする慣習となっているが、これはセレモニーでしかない(役員ではない特別委員長等も列席する)。

特別委員長が役員から除外されていることや議員ではない役員、事務総長が議院の意思決定に参加することは不自然であり、つまり国会役員が機関として活動をすることは期待されていない。

したがって、議長についても議院の役員ではあるが、役員に直接付随する職務、役員という用語から想像されるような職務はなく、議長としての職務権限を有するだけである。しかも、議長がその職務権限を自ら行使しているとは限らず、通常は各委員長や事務総長などに権限を形式的にも実質的にも委任しているのが現実である。そして、国会が混乱し、非常に緊迫した場面になると議長が自ら権限を行使し、あるいは議長の権威という抽象的な概念を拠り所として国会法に規定されていないことも含めて行動することとなる。これは役員だからということではない。

(2)議長の職務権限

国会法には「各議院の議長は、その議院の秩序を保持し、議事を整理し、議院の事務を監督し、議院を代表する(19条)」とある。つまり、秩序保持権、議事整理権、事務監督権、議院代表権の四つである。しかしながら、議長がこれらの権限を自ら積極的に行使する機会は少ない。

①議長の諮問機関

議院運営委員会

こうした権限の日常的行使は議院運営委員会に委ねられている。例えば本会議のセット(議事日程を定め予めこれを議院に報告すること)は議長の権限ではあるが(国会法55条)、通常は議院運営委員会(理事会)で与野党の協議によって決められ、議長は事後報告を受けるだけである。

議院運営委員会の所管する事項には、「議院の運営に関する事項、国会法及び議院の諸規則に関する事項、議長の諮問に関する事項」などがあげられている(衆議院規則92条)。特に、「議院の運営に関する事項」は、法的には曖昧な規定であり、それゆえに解釈はいかようにでもなり、守備範囲は広範になる。結果として議長の秩序保持権、議事整理権、事務監督権は実質的には議院運営委員会が通常は行使している。それゆえ、委員会の代表である委員長が議院運営に持つ権限は大きくなり、国会対策をする与野党議員は委員長に働きかけ、議院事務局はもっぱら委員長の意向を気にする。議長ではないのである。議長は床の間に座らされた殿様のようであり、「よきにはからえ」ということで責任を直接問われることのないように配慮された存在になっている。ただ、議院運営委員会は与野党の合議機関であり、委員長の裁量を越え、与野党の意見の対立が収拾できない、紛糾した場面においては議長の「お出まし」を願い頼らざるを得なくなるのである。

ⅱ議会制度協議会

さらには、議長が国会全体を見渡して関心のある事項について自ら積極的に問題提起をすることもある。この場合は「議長の諮問に関する事項」として一義的には議院運営委員会ないしはその理事会で取り上げられる。より根本的、長期的に検討を要すべき問題については議長の諮問機関である「議会制度協議会」で議論される。議会制度協議会のメンバーは議院運営委員会の理事とほぼ同じであり(委員の割当のない小会派も出席するが)、座長は議院運営委員長が務め、議長も出席することが多い。

議会制度協議会は日韓国会の混乱(国会の攻防(8)参照)の反省を踏まえ、党派の立場を離れて国会正常化、国会法の改正、国会運営の改善を討議する場として1966年3月に最初に設置された。常時活動をしているわけではなく問題の提起とともにアドホックに活動を開始する。これまでに議院運営、政治倫理、国会改革、国会法改正などの問題について随時協議が行われてきた。常任委員会の見直し、常会の1月召集、議員の資産公開法の制定、憲法調査会の設置、内閣総理大臣の指名の議事手続きの変更など一定程度の成果を上げている。

しかしながら、近年では、政治倫理基本法制定(2002年、綿貫議長)、国会議員の互助年金問題(2005年)、公聴会制度の在り方(2007年、河野議長)、国会審議の充実(2017年、大島議長)などの問題で議会制度協議会が開かれているが、議会運営上、与野党の考えが異なる問題となると議論が収束しないままうやむやとなっている。党派の立場を離れるという当初の趣旨も空しく党派的対立のある問題については解決能力はほとんどない。

議院運営委員会で協議をすると簡単には結論がつかない問題について日々の業務に支障が出るために議論の場を別に移す目的を持つこともある。あるいは、大局的、中長期的観点から検討を求める議長と現場主義的、短期的事項に関心が向きがちな議会制度協議会(実質的には議院運営委員会理事会)とは思惑が異なっていることも少なくない。

ⅲその他の議長の諮問機関

困難な問題については「政治倫理に関する協議会(1984年)」のようにより有力議員なメンバー1)議院運営委員会理事会メンバーにプラスして自民、社会から1人ずつ委員が選任された。からなる機関を作ったり、「衆議院改革に関する調査会(2001年)」「国会議員の秘書に関する調査会(2003年)」「国会議員の互助年金等に関する調査会(2004年)」「衆議院選挙制度に関する調査会(2014年)」のように外部有識者に検討を求めることもある(下記表参考)。

この種の諮問機関が設置される時は世間の注目を浴びるが、2011年の原発事故調を別として何らかの法的根拠に基づいて設置されているわけではない。議院運営委員会の議決によって設置されることが多いが、法律に基づくもの、本会議での議決、議院運営委員会での報告で済ませるものなどその決め方はバラバラであり、統一性に欠けている。院の自律権に基づく自由度はあるのだろうが、政治的必要性が優先されて手続きとしては場当たり的になっていると思われる。

②議院の代表

議長の職務として時間的に大きな割合を占めるのは議院代表権であろう。しかし、「議院を代表する」とは曖昧な規定である。主として議院が儀式を行う場合や手続き的な対外的な行為を行う場合に議長が代表して行うことを想定しているのであろう。この中には国会法や衆議院規則に規定されるものもあるが、現実にはその規定の範囲を超えて、あるいは何らの規定もないことについても代表していることがある。実際に何をもって議院を代表する行為なのかは判然としてない場合が多い。

衆議院議長の対外的行為のうち規定のあるものは、臨時会召集要求(国会法3条)、開会式の主催(同9条)、議決議案の奏上・送付(同65条)、内閣総理大臣の指名の奏上(同65条2項)、憲法改正原案の通知(同68条の5)、国務大臣等の委員会への出席要求(同71条)、質問主意書の内閣への転送(同75条1項)、証人の出頭要求(衆規53条、256条1項)、議員の欠員についての通知(国会法110条)、臨時会・特別会・会期延長、国会の休会に関する両院議長の協議(衆規20条、21条、22条)、報告・記録の提出要求(同56条、256条)、会計検査院への検査の要求(同56条の4)などがある。これらは、天皇、内閣、参議院、一般私人、会計検査院などの院外の者に対して衆議院の意思を伝えるものである。ほとんどの場合は事務的に取り進められていく。

内閣総理大臣の指名の奏上については法律上、衆議院議長から内閣を経由して行う規定となっているが、皇居に参内して指名の経過について天皇に直接に報告をしている。総理の任命式(親任式)には両院議長が列席する。

ⅰ国会の開会式

法令上規定されている大きな衆議院議長の院の代表としての行為は開会式の主催である(国会法9条)。開会式は会期の始めに行われる。両院議長が国会中央の正玄関で天皇をお出迎えし、衆議院議長の先導で御休所に入る。天皇は御休所で両院議長らの挨拶を受けたのち、開会式の行われる参議院の議場に入る。まず、衆議院議長が式辞を述べ、次に天皇がお言葉を述べる。天皇のお言葉を衆議院議長が拝受すると終わりとなる。15分弱の儀式であり、司会進行もなく決められたとおりに淡々と進行する。終了すると天皇は参議院議長の先導で御休所に寄った後、正玄関から退出する。その後、衆議院議長は皇居に出向き、行幸御礼の記帳を行う。

帝国議会時代には開院式と呼ばれ議会が活動を開始するために必要な儀式であった2)議院法第5條 兩議院成立シタル後勅命ヲ以テ帝國議會開會ノ日ヲ定メ兩院議員ヲ貴族院ニ會合セシメ開院式ヲ行フヘシ。現在では国会が活動能力を有するための必須の行事ではなくなったが、開会式の主催は大きな行事であり、天皇のおことばを受け取って後ずさりしながら階段を降りることが困難であることを理由に福永議長は辞任に追い込まれた(衆議院議長とは?(7)参照)。

ⅱ宮中関連行事

法的には何らの定めもないが、議長の出席する皇室関係の行事は多い。園遊会など一般の国会議員も参列するものもあるが、議長は代表して祝辞を述べる行事もあり、院の代表としての公務の一つと言えよう。新年祝賀の儀(1月1日)、歌会始の儀(1月)、講書始の儀(1月)、天皇誕生日の祝賀の儀、宮中恒例祭典の最も重要なものとされる新嘗祭(11月23日)などに出席することが多い。また、天皇が公務として行幸する場合には、列車の駅舎や飛行場にてお見送り、お出迎えをする(これは三権の長が輪番で行う)。

また、内閣総理大臣の指名の奏上のみならず、国会が閉会になると議長は宮中に参内し、天皇に国会の審議経過を奏上する。奏上は二人だけの席で行われ、その話の内容は秘密とされる。

ⅲその他の公的行事

さまざまな公的行事に出席し、式辞を述べる機会も少なくない。東日本大震災追悼式(3月11日) 、日本国際賞授賞式(4月)、沖縄全戦没者慰霊式(6月23日)、広島市原爆死没者慰霊式(8月6日)、長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典(8月9日)、全国戦没者追悼式(8月15日)など数多くの式典に参列し、式辞や祝辞を述べている。

また、「全国植樹祭」と「全国豊かな海づくり大会」は、衆議院議長が大会会長となっている大規模な行事である。いずれの行事も年に一度ずつ開催され、天皇が臨席する。全国各地を巡りつつ森林資源や水産資源を保護しつつ、持続可能な産業の振興を図ることを目的とし、天皇が自ら植樹し、あるいは稚魚などを放流する。開催地の各都道府県の組織する大会実行委員会と「国土緑化推進機構」あるいは「全国豊かな海づくり推進協会」が主催者であるが、天皇の出席する格式の高い式典とするためそれぞれの大会会長は衆議院議長が充てられている。また、日本さくらの会も衆議院議長が会長となる慣例である。

ⅳ議長外交

外国の議長の訪日招待は議長の判断によるところが大きい。外国議長の接遇全般、会議、招宴などについては事務局を通じて議長が行う。政府間の関係が円滑にいってない場合、議長や議員による外交を通じて風穴をあけることもある。また、衆議院の招待だけではなく、国賓、政府の賓客らの議長に対する表敬訪問や晩餐会はかなりの回数に上る。招待者の格からして、外交儀礼上、議院運営委員長が院の代表として議長の代理を務めることは難しいものがある。このほか、毎年各国の持ち回りで行われているG7下院議長会議3)初回会合は2002年。日、英、米、独、仏、伊、加の7か国の下院議長が参加している。2014年までは露も参加していた。なお、2007年からは欧州議会議長が恒常的なゲストとして参加している。にも出席している。

ⅴ皇室会議、皇室経済会議の議員

皇室会議は、皇室の重要事項を合議する会議で、皇族、総理、衆参両院正副議長、最高裁長官などからなる。皇室経済会議は内廷費・皇族費の変更、皇室を離れる皇族への一時金などについて協議する。不定期、時宜に応じて開催される。皇室典範、皇室経済法の規定に基づいているが、国会の代表としての人選である。

脚注

脚注
本文へ1 議院運営委員会理事会メンバーにプラスして自民、社会から1人ずつ委員が選任された。
本文へ2 議院法第5條 兩議院成立シタル後勅命ヲ以テ帝國議會開會ノ日ヲ定メ兩院議員ヲ貴族院ニ會合セシメ開院式ヲ行フヘシ
本文へ3 初回会合は2002年。日、英、米、独、仏、伊、加の7か国の下院議長が参加している。2014年までは露も参加していた。なお、2007年からは欧州議会議長が恒常的なゲストとして参加している。

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