国会審議における議員立法(9)

国会審議における議員立法(9)
─ 野党提出の議員立法の審査状況

岸井和
2020.03.25

(2)近年の議員立法の審査状況と審査されない野党の議員立法

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  1. 表3、4から分かる通り、ここ20年間においても、野党のみで提出した議員立法の法案数は多い。全法案数(継続法案、新規提出法案をあわせ各会期において審議可能な法案数)に占めるその構成比は衆議院で64%、参議院で88%である1)法案数には前の会期から継続されているものをも含む。議決に至らない野党案が累積されるため、法案数構成比率が特に衆議院において高い数値となって表れている。他方で、参議院においては議員立法を継続審査とすることは少ないので、同様の影響は少ない。
  2. この野党提出法案のうち、成立した法案数は6法案(前項(1)参照)、成立率は衆参いずれにおいても1%に満たない。
  3. 本会議または委員会で少なくとも趣旨説明を聴取され、審議入りしたと言える法案の割合(審議率)は衆参とも20%程度であり、さらに進んで質疑を行ったものはさらに少なくなる。提出されても5法案に1つの割合でしか審議の入り口にすら入れないのである。
  4. 否決されるなど採決にまで至った野党提出法案の割合(議決率)は、衆議院で9%、参議院では1.5%であり、野党提出の議員立法は否決にまでたどりつけば、上出来という結果となっている。少なくとも数字的に見れば、提出されても審議すらされないのが野党提出議員立法の現状である。

野党の提出する議員立法は、党の政策を有権者にアピールする法案、支持団体などの期待に応えるための法案、あるいは閣法・与党案に対する対案である。対案は与党案や閣法とともに審議の対象となることが多いが、それ以外の法案は単に提出したという実績が残るだけである。極端な例ではあるが、2017年の常会において、維新は単独で100本以上の議員立法を参議院に提出した。これらは全て審議も行われずに会期末とともに廃案となった。世間に対しては多数の法案を提出し積極的に活動しているとのアピールにはなるかもしれないが、国会の中では法案作成に関わった議院法制局の労力を除いてほとんど意味のない作業であった。提出法案数の増加、つまり、多数を占める野党提出法案の増加をもって議員立法の活性化だという評価に直ちにつながるとはいいがたい。

もちろん、野党案は、与党のように政府との関係から何らかの制約を受けることなく、政策を先取りするような法案もあるし、たとえ審議されなかったとしても与党案や閣法に対する修正の契機となる場合もある。また、いったん提出した法案でも撤回した上で、委員会提出法案として与野党の合意を見られるような形で改められて結実することもある。審議されないからと言って全く無意味であるとは言い切れない。

政治的に与党は野党提出の法案を審議しようとは考えていない。委員会で野党の主張を聴くことで、いたずらに野党に得点を与えるようなことは考えない。会期の制約がある中で、閣法の審議を優先しなければならない。過半数を持つ与党が了解しなければ審議入りはあり得ない。また、議会の制度から見ても、議員立法の審議に時間を割り当てるような仕組みがない。本会議での趣旨説明を与党から要求されれば法案を委員会に付託することもできない。このいわゆる「吊るし」の制度は議員立法の審議を阻止する機能も果たしている。「吊るし」を解除するには本会議で趣旨説明を聴くか、議院運営委員会での採決で強制的に委員会に付託するかだが、いずれにしても与党が認めないとできない。こうした長年の先例に慣れているので、法案を提出した議員も提出したことに満足している。法案の提出者が勢揃いで事務総長に法案を手渡すところをマスコミや党の機関紙に撮影させる光景は、セレモニー提出と揶揄されることもある。提出はしたものの、あえて審議入りを求めないことも決して珍しくなく、会期末には吊るされたままの議員立法が山のようなっている。審議入りされるとかえって提出者にとって不都合な法案さえも存在する。内容が練られていない法案、答弁ができないような法案も少なくない。

脚注

脚注
本文へ1 法案数には前の会期から継続されているものをも含む。議決に至らない野党案が累積されるため、法案数構成比率が特に衆議院において高い数値となって表れている。他方で、参議院においては議員立法を継続審査とすることは少ないので、同様の影響は少ない。

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