国会の召集と会期(3)

国会の召集と会期(3)
─ 開会式、開院式

岸井和
2020.05.27

(5)開会式

①開会式

国会が召集されると会期の初めに開会式が行われる(国会法8条)。会期が数日の短期の国会でも開会式は行われるが、召集日に解散された場合には開会式は行われていない。

開会式は衆議院議長が主宰し(同9条)、その日時場所は衆参議長が協議して定める1)衆議院規則19条、参議院規則21条こととなっているが、概ね定型化している。日時については、会期の始めに行うことを原則に、特別会の場合は新内閣の成立後、施政方針演説か所信表明演説の日に行われることが多い2)同上衆議院先例集28、同上参議院先例録32。時刻については必ずしも決まっていないが、午前11時あるいは午後1時の場合が多い3)同上衆院先例集28、同上参院先例録33。開会式に出席する天皇の都合についても予め調整している。場所については参議院の議場で行うのが定例化している4)同上衆院先例集29、同上参院先例録35。現実問題として、衆議院議場は開会式を行うしつらえにはなっていない。帝国議会時代以来、貴族院議場、それを引き継ぐ参議院議場で行われている。

衆議院における実際の例をとってみると、召集日の正午から院の構成のための本会議が行われ、その後、本会議で設置が決まった特別委員会を開いて委員長を互選して、国会の役員等5)国会法第16条により国会役員として正副議長(議長選挙前の仮議長を含む)、常任委員長、事務総長が定められているが、特別委員長、調査会会長、憲法審査会会長、情報監視審査会会長、政治倫理審査会会長も国会役員に準じるものとしてほぼ同等に扱われる。を決めて形を整えたうえで、衆参議長以下国会役員等が議事堂の正玄関にて天皇をお迎えし、午後1時から参議院議場にて開会式を行う。開会式には、天皇の臨席のもと、両院議長、各常任・特別委員長など及び内閣総理大臣以下の大臣、一般の議員などが出席する。

開会式では、天皇が衆議院議長の先導で議場に入室すると何らの司会進行の言葉もなく開式となる。まず、衆議院議長が両院を代表して式辞を述べ、続いて天皇がおことばを述べる。おことば書を衆議院議長が受け取ったのち、参議院議長の先導で天皇が退出し、開会式は終了となる。この間、10分程度である。

②開院式と開会式の違い

明治憲法下では開院式が行われていたが、その持つ意味は現在の開会式と異なる。天皇が主権者として立法権を持ち、議会はその協賛機関であった時代の開院式と、日本国の象徴であり、政治的権限を持たない現行憲法のもとでの開会式は形式的にも実質的にも異なっている。

まず、明治憲法下では、形式的に召集と開会は別のものであった。召集は議員に対し一定の期日に一定の場所に集会することを天皇が命ずるものであったが、それが直ちに議会が活動能力を有することではなかった。召集されると議事を開くための準備行為を行うことから始められた。つまり、正副議長が勅任され、議員の議席を決め、抽選で全議員を9部に分け各部の部長を互選することを行った。これを議院の成立という。この準備行為にかかる日数はおおむね2~5日であった。

成立すると詔書をもって期日を定めて開会が命じられた6)明治憲法7条、議院法2~5条。「召集の後、議會を開閉し、両院の始終制するは亦均く志尊の大權による。開會の初天皇親ら議會に臨み、又は特命勅使を派して勅語を傳へしむるを式とし、而して議會の議事を開始するは必其の後に於いてす。7)伊藤博文「憲法義解」岩波文庫 昭和38年」とされ、開院式において天皇の勅語を賜り、それは議会が開会し、会期が始まるための法的条件であった。現在では、召集と開会は区分けされておらず、また、開会式は法的条件ではなく、召集とともに会期が始まり国会は活動能力を持つ。明治憲法下では議会に活動能力を与える勅語であったのに対し、現行憲法下のおことばは国会の活動能力の付与とは関係のない法的効果のないものである。そのため、施政方針演説や所信表明演説の行われない3日間程度の短期間の特別会、臨時会では、開会式が会期終了日に行われることが多い。

1946年12月28日、帝国議会最後の開院式の天皇の勅語は次のとおりであった。

本日、帝國議会開院の式を行い、貴族院及び衆議院の各員に告げる。
朕は、國務大臣に命じて、昭和二十二年度予算案及び各般の法律案を帝國議会に提出せしめる。各員心をあわせて審議し、協賛の任をつくすことを望む

2020年1月20日の国会の開会式の天皇のおことばは次の通りであった。

本日、第二百一回国会の開会式に臨み、全国民を代表する皆さんと一堂に会することは、私の深く喜びとするところであります。
国会が、国民生活の安定と向上、世界の平和と繁栄のため、永年にわたり、たゆみない努力を続けていることを、うれしく思います。
ここに、国会が、国権の最高機関として、当面する内外の諸問題に対処するに当たり、その使命を十分に果たし、国民の信託に応えることを切に希望します。

 戦前の勅語は簡潔なことが多いが、内容的には議員に対して命令的であり、国務大臣に予算や法案の提出を命じ、議会は天皇の協賛機関としての役割を果たすことを望むとしている。これに対し、現在は、議員と会することを喜びとし、国会が政治上の問題に努力することをうれしく思い、国権の最高機関としての使命を果たし国民の信託に応えることを希望すると、一般的事実や抽象的な理念に対し感想を述べているに過ぎない。当然のことながら、主権者としての天皇と象徴としての天皇との違いが明白である。勅語は政治的命令で法的効果があるのに対し、おことばは儀礼的であり、政治性を有していない。

このおことばは天皇の公的行為とされ、閣議決定事項である。公的行為とは、憲法で定められている国事行為ではなく、また、天皇の私的行為でもない、公人としての行為であるが、憲法上、その性格の根拠が明確ではないとの議論が長年あった。かつては憲法違反とする意見も根強かったが、おことばは、国事行為そのものではないが内閣の判断に基づくものであり、天皇の私的判断の余地はない公的行為であり、国政に関する権能を有するものではない、との考えが今では一般的であろう。共産党は、開会式がかつての開院式を踏襲し、政治的発言が含まれているとの考えから開会式に欠席してきたが、この三十数年来の開会式の天皇の発言の内容には憲法の問題はなくなっているとして、2016年から出席に転じた8) 2016年1月5日 しんぶん赤旗。ただし、共産党は、開会式の形式はかつての開院式を踏襲しており改革が必要だとの考えである。。実際、上記の例ような、毎回似通ったおことばが述べられ、定型的、儀礼的な内容となっている。

ちなみに、英国での議会開会式では、貴族院にて女王の演説が行われる。それは政府の政策方針を簡潔に述べるものであり、具体的であり政治的な性格を帯びている。政府の施政方針演説を女王が行っているようなものである。実質的な政治は政府・議会に任せ、直接には関与しないとしつつも、形式的には女王が主権を持つことから、戦前と戦後の日本との折衷的なものとも言えなくもない。「私の政府が」「私の大臣が」〇〇の政策を進めるとの表現をとって演説している。2019年12月19日の演説では、まず翌年1月31日のEU離脱政策を掲げ、続けて社会保障政策、雇用政策、犯罪対策、財政・産業政策、環境問題、軍などについて政府の方針を述べている。天皇や女王の政治との関係性は、それぞれの国で異なるが、その間合いの取り方は歴史を踏まえて細心の注意が払われている。

脚注

脚注
本文へ1 衆議院規則19条、参議院規則21条
本文へ2 同上衆議院先例集28、同上参議院先例録32
本文へ3 同上衆院先例集28、同上参院先例録33
本文へ4 同上衆院先例集29、同上参院先例録35
本文へ5 国会法第16条により国会役員として正副議長(議長選挙前の仮議長を含む)、常任委員長、事務総長が定められているが、特別委員長、調査会会長、憲法審査会会長、情報監視審査会会長、政治倫理審査会会長も国会役員に準じるものとしてほぼ同等に扱われる。
本文へ6 明治憲法7条、議院法2~5条
本文へ7 伊藤博文「憲法義解」岩波文庫 昭和38年
本文へ8 2016年1月5日 しんぶん赤旗。ただし、共産党は、開会式の形式はかつての開院式を踏襲しており改革が必要だとの考えである。

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