内閣不信任(内閣信任)決議案とは何なのか?①
―理論だけではない手段としての内閣不信任(内閣信任)決議案の現実
岸井和
2026.06.11
内閣不信任決議案は国会(衆議院)の最重要議案のひとつである。それは、国会と内閣との関係を統制する制度であり、政治的には議院内閣制にあって政党政治の緊張関係を最も如実に体現しているとともに、法的には憲法において可決された場合の効果として、内閣総辞職か衆議院の解散が義務付けられているからである。
とはいえ、内閣不信任決議案が可決されたことは戦後国会の約80年のなかで4回しかない。それはある意味当然のことで、衆議院の優越の制度下では、国会の信任によって成り立つ内閣は衆議院の過半数を有しているのが通常であるから、ほとんどの場合は否決されることが予め分かっている。大概の議員は笑顔を見せつつ採決に臨んでいる。それでも、野党はこの議案を議会政治の象徴的意味合いを込めて提出している。
なお、参議院においては、似たような決議案として内閣総理大臣問責決議案が提出されることがあるが、政治的意味合いは別として法的には効果はない。
1内閣不信任決議案提出にあたっての一般原則
内閣不信任決議案は野党が提出する。提出するタイミングは野党が握っている。ただし、いくつかの規則、先例上の制約はある。
①提出要件
第一に、提出要件である。衆議院規則により提出者(1人でも複数名でも可)のほかに賛成者が50人以上必要である。つまり最低限51人が賛同していないと提出できない。乱発されることを回避するために賛成者要件を定めている。つまり、小規模な会派は単独で提出することはできない。
なお、本年の選挙結果を受け、野党第一会派の中道は49人となり、現状、どの野党会派も単独では内閣不信任決議案が提出できなくなっている。これは与野党が明確になった55年体制以降、初のことである(以前の総選挙後の野党第一会派の最少人数は2017年の立憲55人)。
②決議案の文面
次に、決議案の文面は「本院は〇〇内閣を信任せず 右決議する」という簡単なものである。内閣不信任にかかる決議案であることを明示する必要がある。
なお、決議案の名称は、最初期の頃は「吉田内閣不信任に関する決議案」「不信任決議案(吉田内閣)」と一定ではなかったが、以降は「○○内閣不信任(信任)決議案」とする例となっている。
③一事不再議
第三は、一事不再議の原則である。一会期内に同じ問題を再度取り扱わないという会議上の原則、先例である。朝令暮改を避け議決の権威を守り、同じことを繰り返さない効率性を担保するためである。事情が変更されれば必ずしも一事不再議は適用されないこともあるが、内閣不信任決議案に限れば1会期に1回のみという先例が確立されているといえよう(第7回、13回、19回、123回国会。議決不要、審議不要などの議決を行なうか、そもそも取り扱わない。内閣「信任」決議案可決後の内閣「不信任」決議案も一事不再議の対象となる(123回))。
さらに、内閣不信任決議案が提出(否決)された後は、個々の国務大臣に対する不信任決議案は提出することができないことも先例として確立している。野党としては1回限りのカードをいつ、どのように切るかは会期を見渡しての重要な判断となる。
④先決問題
第四は、内閣不信任決議案の先議である。内閣不信任決議案が提出されるとすべての審議がストップするのが先例である。理屈としては「最優先案件は内閣不信任決議案だから、その結論が出なければ他の内閣提出案件は審議できない」ということである。内閣不信任決議案は、院の構成を除き、他の案件に先立って委員会審査を省略したうえで本会議の議題とするのが先例である。野党にとっては大きな戦術となるため、重要法案の審議の進捗状況との兼ね合いを見極めて提出する。
⑤記名採決
内閣不信任決議案の採決は重要議案であるから「記名採決」で行うのが通例である。ただ、これまで3回、起立採決で行われたことがある(三木内閣No17(Noは下表中の左端の欄の番号)、鈴木内閣No20、安倍内閣No41。いずれも否決)。これは内閣不信任決議案の提出要件(51名以上)は満たすが、記名投票の要求要件(出席議員の5分の1以上の要求)を満たすことができないことによる。
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