国会の召集と会期(7)

国会の召集と会期(7)
─ 会期不継続-海外の会期不継続、問題点

岸井和
2020.06.28

④諸外国の会期不継続について

下の表にあるように、日本を除く主要国では、下院議員の任期にあたる議会期(選挙期、立法期もほぼ同様の概念)を定める国が多い。その議会期がいくつかの会期に分かれる。ドイツでは会期はなく、下院議員の5年の任期中はいつでも活動が可能な万年議会制である。

会期不継続、特に、案件の継続を原則として認めていない国は多くない。主要国では日本と英国である。そもそも会期という概念がないドイツでは下院議員の任期中(選挙期)、案件は継続するため会期不継続を論じる必要はない。アメリカも下院議員の2年の任期中(議会期)、案件は継続する。フランスも同様である。英国は歴史的に会期不継続の原則を採用してきたが、例外的に継続を認めるようになった。ただし、英国の会期はほぼ1年なので、不継続だとしても1年間は議案は継続することとなる。

⑤会期不継続の原則は果たして必要なのか?

会期不継続の原則は、ただでさえ会期の短い日本の国会に、二重に制約を課することになる。議論が寸断されることになる。野党が反対法案の審議未了廃案を目論んで日程闘争を繰り広げ、会期末に激しく抵抗する理由はここにある。それゆえ、会期不継続は絶対的に守るべき原則なのかについては議論がある。案件の不継続、審議過程の不継続については、前述リンクを貼るのように日本の国会でも会期不継続を緩和し、あるいは例外を認めている事項もある。諸外国では、会期不継続を採用していない国のほうが多い。この原則は相対的なものであり、議会の裁量で選択しうる一つのルールに過ぎないともいえる。

実際、折に触れて会期不継続の原則の見直しを求める意見もある。1966年には衆議院議院運営委員会の要請を受けて衆議院事務局は、会期末の法案の成否をかけた混乱を避けるため「国会の議決を要する議案については、議員の一任期を限度として一会期にその審議を終了しなかったものは、議案と共に前会期における審議が後会に自動的に継続することを認める」との提言1)昭和41年3月 国会正常化に関する試案をしている。文意が不分明な点もあるが、案件の継続を認めるべきだとの意見であろう。

また、2006年には21世紀臨調が「国会機能の活性化のために、…国会法68条に規定する「会期不継続の原則」を撤廃し、閉会中審査の手続き如何にかかわらず、審議未了の案件でも後会に自動的に継続する方向に制度を改めることが望ましい。…会期を気にすることなく必要なだけ法案の審議を行うことができるとともに、日程設定の駆け引きをめぐる戦後日本の「日程国会」を根本から改めることができる」との提言2)平成21年11月4日 新しい日本をつくる国民会議「国会審議活性化等に関する緊急提言」を行った。これも案件の継続を認めるべきだとの趣旨であろう。

これらの意見は、案件の不継続の原則を見直すべきだとの立場であるが、これが実質的な意味を持つためには少なくとも審議経過の継続を認めることも含めないと効果がない。次の会期で再度ゼロからやり直すのであれば、同じ手続きを初めからやり直すことになり非効率で、日程闘争は再び繰り返されることとなり、案件を継続したことの意味はあまりなくなる。他方で、会期不継続の原則の緩和については、野党が反対法案を会期終了をもって廃案に追い込むことができず、政治的に野党の有力な戦略を奪うこととなる。さらに、議決の効力の不継続については憲法上変更することが可能なのかという指摘もある。

法的な論点からは、まず、憲法で会期制を採る以上、一つの会期における国会の独立性を与えるもので、会期ごとに独立した意思を持つべきであり、会期不継続は憲法上の不文の原則であるという説がある。しかし、この説明では諸外国の例から考えると合理性に欠ける。会期制を採りつつも会期不継続を採らず、議会期の間は案件は継続する国もある。歴史的沿革からすれば会期制と会期不継続の原則が結びついていたとは言えるものの3)歴史的に、国王の諮問機関である英国議会は、召集の都度諮問事項が異なっており、会期制、会期不継続の原則へとつながったとされる。ただし、議会は毎年召集されるわけではなく、召集のたびに下院議員は選挙されており、諮問事項においても議院の構成の点からも継続はとりえなかった。、絶対的な結びつきまでは主張できない。日本に限った話としても、案件の継続は現実には(手続きは必要だが)頻繁に行われており、相対的な制度である。

あるいは、議決の効力の不継続について、かつてはそれを不当とする見解もあった。議案が継続審査に付された場合、会期の断絶はなく、二つの会期は継続したものと見るべきである、そうでなければ継続審査の制度の有する重大な意味が失われてしまうとの考えである4)宮沢俊儀「全訂日本国憲法」日本評論社 1978年。1949年の第5回国会で食糧確保臨時措置法改正案は参議院で修正議決され、衆議院において継続審査となった。次の第6回国会で衆議院は参議院での修正議決をそのまま認める議決をしたから、その時点で法案は成立したと考えるべきであると。しかし、実際は法案は参議院に送付され(戻され)、そこで審議未了となり成立しなかった。現在は前述のように国会法が改正され、法律の規定上、このような場合には法案は成立しないが、この考えの肝心な点は、議決の効力の不継続は憲法上の原則ではなく、国会法を改正すれば継続を認めることも可能ではないか、単なる一つのルールに過ぎないのではないかと考える余地があることを示唆していることにある。

これに対し、議決の効力の不継続は憲法上の要請であるとの考えもある。たとえば、衆議院の法律案の優越規定は同一会期内に再議決することであるとの憲法解釈が確立されているとされる。憲法の規定では衆議院が再議決の前提となるみなし否決を発動可能となるのは「国会の休会中を除いて」60日以内に参議院が議決しない場合であり、会期をまたいだ議決の効力の継続を認めるならば「閉会中の期間を除いて」とも書かれているはずではないか。これを根拠に議決の効力の不継続は憲法上の要請であるとする意見である。

一方で、みなし否決の「60日」の期間に閉会中の言及がないのは「言うまでもないこと」であるから書いていないとも考えることはできる。憲法の規定は参議院に60日間の審議期間は保証するという趣旨であるから、国会の活動能力がない閉会中についてあえて言及する必要はない。休会中は会期内であるから期間に算入するか否かの疑義が生じるのを避けるために言及しているが、閉会中とは意味が異なる。会期が変われば継続された法案は参議院の扱い次第となり、優越規定は使えず衆議院は手をこまねいて見ているしかなくなる。前会で30日経過すれば、当然に閉会中の期間は除いて次の会期で残りの30日という方法も採りうるのではなかろうか。

再議決は同一会期内でなければならないとの解釈が定着していると考えるのは妥当であろう。日本国憲法制定時の金森徳次郎大臣も同一会期内でなければこの権利は行使できないとの答弁をしている5)1946.9.20 貴族院帝国憲法改正案特別委員会議事速記録。しかし気になるのは、「大体この憲法も、現在の憲法(明治憲法)と同じような建前で」明治憲法的な会期ごとの議事の独立性を前提に答弁をしていることにある。この答弁からすれば案件が継続しないことを前提に再議決は同一会期内に行うべきだとしている。解釈論は別として、憲法の条文からは、ここまで案件の継続や議決の効力の継続を否定することまでは読み取れない。その場でこの答弁を聴いていた宮澤俊儀は後に案件が継続された場合には議決の効力も継続するべきだと主張している6)前掲「全訂日本国憲法」参照。議決の効力継続した議案の場合は会期の断絶はなく、会期は継続しているものとするといった判断も可能なのではないか。

要は、現行のルール、また、別のルールのどちらにでも解釈が可能であり、一つのルールの設定の仕方に過ぎないということである。また、政府の権限を強く定めていた帝国議会のルールに引きずられる必要もない。現在の運用からみても、不継続の原則を緩和したり、衆参で取り扱いが違ったり、案件の内容によっても差異がある。より重要なのは、国会議員が全国民の代表として、国会が国権の最高機関として、慎重で内容のある審議と共に効率的な運営が可能となるようなルールを選択することにある。具体的には、案件の継続、審議過程の継続、議決の効力の継続とあるなかで、どこまで認めるかの判断となろう。

さらには、単に会期不継続の問題だけではなく、会期制度との関係も併せて考える必要があろう。仮に会期が1年となれば会期不継続の原則を残しておいても、その問題点の大部分は実質的に克服されると思われるからである。

脚注

脚注
本文へ1 昭和41年3月 国会正常化に関する試案
本文へ2 平成21年11月4日 新しい日本をつくる国民会議「国会審議活性化等に関する緊急提言」
本文へ3 歴史的に、国王の諮問機関である英国議会は、召集の都度諮問事項が異なっており、会期制、会期不継続の原則へとつながったとされる。ただし、議会は毎年召集されるわけではなく、召集のたびに下院議員は選挙されており、諮問事項においても議院の構成の点からも継続はとりえなかった。
本文へ4 宮沢俊儀「全訂日本国憲法」日本評論社 1978年
本文へ5 1946.9.20 貴族院帝国憲法改正案特別委員会議事速記録
本文へ6 前掲「全訂日本国憲法」参照

コメント

タイトルとURLをコピーしました