国会の召集と会期(6)

国会の召集と会期(6)
─ 会期不継続の原則とは?

岸井和
2020.06.20

(5)会期不継続の原則

国会は会期を一つの単位として活動し、会期ごとに別個の存在であり、会期をまたいで案件や議決の意思は継続しないことを原則とするものとされている。憲法において直接には規定されていないが、国会法では「会期中に議決に至らなかった案件は、後会に継続しない(68)」と規定されている。これを会期不継続の原則という。

明治憲法では「帝国議會ハ三箇月ヲ以テ會期トス(42条)」と定められ、その意味するところは「議會閉會したるときは會期の事務は終を告る者とし、特別の規定ある者を除く外、議事の已に議決したると未だ議決せざるとを問わず、次囘の會期に継續することなし」1)伊藤博文「憲法義解」岩波文庫 1963年とされていた。特別の規定として議院法において、政府の要求又は同意があれば例外的に閉会の間議案の審査を継続できることとされていた2)議院法第25條 各議院ハ政府ノ要求ニ依リ又ハ其ノ同意ヲ經テ議會閉會ノ間委員ヲシテ議案ノ審査ヲ繼續セシムルコトヲ得。しかし、実際には帝国議会時代には議案の継続審査が行われたことはない3)今野彧男「国会運営の法理」信山社 2010年。戦前の政府は議会の活動が常態化し政府の活動が掣肘を受ける事態を避けようとした。議会の召集、会期の決定などは政府が決定権を持ち、議会の自由な活動は制約された。議会が継続して活動することを避けるため、政府は会期ごとの独立性を求め、かなり厳格な議案の会期不継続の制度をとっていたといえる。

現在の憲法では会期制を明記していないものの、常会、臨時会、特別会の規定があり、明治憲法下と同様に会期制をとっているという前提のもとに国会は運営されている。また、会期不継続の原則も引き継がれ、それは国会法に規定されている。その内容から「案件の不継続」「議決の効力の不継続」「審議過程の不継続」の三つからなるとされるが、衆議院と参議院とで取り扱いが異なる部分もある。

①案件の不継続

「案件の不継続」とは、国会に提出された案件は会期の終了とともに消滅し、廃案となるというものである。上記の国会法68条はこのことを明文化している。しかし、他方で、「常任委員会及び特別委員会は、各議院の議決で特に付託された案件(懲罰事犯の件を含む。)については、閉会中もなお、これを審査することができる(国会法47条2項)」としたうえで、「閉会中審査した議案及び懲罰事犯の件は、後会に継続する(同68条但書)」と原則の例外規定を設けている。

つまり、院議で閉会中審査が認められた案件(議案と懲罰事犯)については次の会期においても継続する。会期末の本会議では、各委員会からの申し出のあった案件について閉会中も審査をすることを決し、後会に継続させる手続きをとっている4)各員会に未だ付託されていない案件は、委員会から閉会中審査の申し出ができないため、会期末の本会議において所管する委員会で閉会中審査をすることを議決し、継続審査とすることもある。この手続きは院議閉中と呼ばれている。。実際には、この例外規定が用いられることは多く、特に衆議院においては原則と例外が逆転しているといえる。潜在的に与党が反対するであろう野党提出の議員立法についても与党は継続審査については賛成することが多い(与党が賛成しないと廃案になってしまう。「国会審議における議員立法(1)」参照)。参議院では参法については取捨選択して継続審査とする傾向がある。最終的に廃案とする場合を別として、継続審査を認めず会期ごとに提出しなおすことは様々な手続きを繰り返すだけであり効率性に欠けることと野党をいたずらに刺激することを避けるためである(ただ近年は、数十から多い時には百本前後提出される維新単独提出の参法については、会期ごとに廃案と再提出が繰り返される傾向にある)。

閉会中の案件の継続について、衆議院と参議院では呼び名が異なる。衆議院では国会法どおり閉会中審査と呼ばれているが、参議院においては継続審査と呼ぶことが一般的である。また、参議院規則には「委員会が、閉会中もなお特定の案件の審査又は調査を継続しようとするときは、理由を附して文書で議長に要求しなければならない(53条)」との規定があるが、衆議院規則には同様の文言はない。ただ、規定にはないが、各委員会が閉会中審査を申し出る際には衆議院においても参議院規則同様の手続きを行っている。閉会期間が終わり、次の会期を迎える際に各委員会が閉会中に審査が終わらなかった旨を議長に報告するのは、衆議院も参議院も同様である(衆議院規則91条、参議院規則72条の3)。

また、憲法改正原案については会期不継続の規定は適用されない5)2007年の日本国憲法の改正手続に関する法律改正に伴い、国会法102条の9第2項が定められている。憲法審査会に付託された案件についての第68条の規定の適用について、同条ただし書中「第47条第2項の規定により閉会中審査した議案」とあるのは、「憲法改正原案、第47条第2項の規定により閉会中審査した議案」とする、とされた。。予算案については憲法上の衆議院の先議権の規定から、衆議院でのみ次国会への継続が可能と解されているが、政府にとって最重要議案である予算案が閉会中審査に付されたことはない。

 

②議決の効力の不継続

「議決の効力の不継続」はさらに重要である。議院の意思(議決)は一つの会期内において有効であり、次の会期では意思は継続しないとするものである。例えば、議席の指定、特別委員会の設置、小委員会の設置などは次の会期には効力を失う。

ここで問題なのは、一院で議決された議案がその後、他院で審議が終わらずに継続された場合である。つまり、例えば、衆議院で可決され参議院に送付された法律案が、参議院で議決に至らず継続審査となったような場合である。この場合、次の会期で参議院が可決したとしても、衆議院において再度議決しなければならない。案件そのものは継続させることができるが、衆議院の議決の効力は次の会期まで継続せず、同一会期内に両院で可決しなければ法律として成立しない。

国会法では「甲議院の送付案を、乙議院において継続審査し後の会期で議決したときは、第83条6)国会法第83条
国会の議決を要する議案を甲議院において可決し、又は修正したときは、これを乙議院に送付し、否決したときは、その旨を乙議院に通知する。
2 乙議院において甲議院の送付案に同意し、又はこれを否決したときは、その旨を甲議院に通知する。
3 乙議院において甲議院の送付案を修正したときは、これを甲議院に回付する。
4 甲議院において乙議院の回付案に同意し、又は同意しなかつたときは、その旨を乙議院に通知する。
による。(83条の5)」とされている。議決の効力の不継続について明確にするために1955年に改められたものだが、分かりにくい条文になっている。83条は両院間の議案の送付関係等を定めるものであるが、簡単に言えば、継続議案が後会で議決された場合は両院間の議案の送付等は最初に戻ってやり直しとなることを規定している。

しかしながら、議決の効力は継続しないという原則が国会のすべての場面で徹底されているわけではない。特別委員会は会期ごとに設置し直され議決の効力は継続しない前提に立っているものの、両院の規則7)両院の議院規則は、憲法第58条第2項の「両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め」に基づき定められた議院内部の法規範であり、各々の議院の議決のみで効力を発する。法律案とは異なり、甲議院の議決後に乙議院に送付することや、公布をすることは要さない。や正副議長、常任委員長、常任委員、参議院の調査会などはいったん決められると、その効力は会期を超えて存続している。規則は選挙を跨いでも(いわゆる議会期を超えても)、新たな改正の議決があるまでは効力を維持している。

あるいは、議決の効力の不継続を徹底すれば、衆議院で修正議決された法案が参議院で継続審査になった場合、次の会期に継続されるのは、修正された法案ではなく、原案ではなくてはならない。しかし、実際は修正された法案が継続する議案として扱われている。

さらに、内閣不信任決議案のように法的効力が定められているもの以外の国会決議の効力がいつまで続くと解すべきなのかは曖昧である。あるいは、頻繁に行われる委員会の法案可決とともに議決される附帯決議についても、政府の法律の実施運用について一定の制約を課すものであるが、その効力については曖昧である。これらをはじめとした決議は著しく政治的なものであり、たとえば、非核三原則に関する国会決議8)非核兵器ならびに沖縄米軍基地縮小に関する衆議院本会議決議(1971年11月24日)、核兵器不拡散条約採決後に衆議院外務委員会において採択された決議(1976年4月27日)、核兵器不拡散条約採決後に参議院外務委員会において採択された決議(1976年5月21日)、国際連合軍縮特別総会に関する第84国会・衆議院本会議決議(1978年5月23日)、核軍縮に関する衆議院外務委員会決議(1981年6月5日)、第2回国際連合軍縮特別総会に関する衆議院本会議決議(1982年5月27日)及び参議院本会議決議(1982年5月28日)は政治的には非常に大きな影響力を有するともいえるが、その効力が実質的に会期を超えて将来にわたって政府を拘束し続けるような扱いとなることもある。それは、政治的判断にかかっており、それを打ち消す新たな決議がなされるか立法がなされるまで、あるいは新たな現実が生じたことによりその決議が意味を失うまで続くこととなる。
1997年に参議院本会議において友部達夫参議院議員に対する議員辞職勧告決議案が可決された。その後、会期がかわっても辞職勧告決議案を無視したのであるから院議無視との理由で懲罰に付すべきだとの議論もあった。議決の効力は不継続とする原則を採りながらも、それを理由として後の会期で懲罰に付するとすれば整合性がとれない(結果的に懲罰動議は提出されなかったが)。将来にわたって影響があるような決議の効力は、法的な位置づけが定まっていないがゆえに、国会の手続きのルール上では継続しないものの政治的にはその内容が継続するといった事態が生じうる。

 

③審議過程の不継続

「審議過程の不継続」は、意思決定に至らなかった議案は、次の会期ではまた最初から審議をやり直すということである。この原則は、衆議院で採用し、参議院では採用していない。そのことは、絶対的な原則ではないこと、法的強制力もないことを意味し、国会審議のルールに関わる先例としての意味しかない。

衆議院においては、法案が委員会で審査されている途中で会期が終了して閉会中審査となった場合、議案が継続されたとしても次国会の冒頭で議長が所管委員会に改めて付託し、委員会では再度趣旨説明からスタートすることとなる。

他方、参議院においては、常任委員会において継続された議案については、改めて付託することなく、その委員会において審査を続ける(参院先例録)とあり、前の会期の続きから審査を進めている。

しかし、両院間の違いは実質的にはそれほど大きくない。衆議院でも、実際には次の会期では議案の趣旨説明聴取を省略し、前国会での質疑の時間もカウントに入れるなど、前の会期での実績を踏まえたうえで新たな審査を進めることが少なくない9)たとえば、すでに委員会において趣旨説明を行った法律案が継続審議となった場合、次の会期において、衆議院では趣旨説明を省略することを委員会で諮り合意を得たうえで進めるのに対し、参議院では委員長が先国会において既に趣旨説明を聴取しているので、すぐに次の議事である質疑に入ることを宣告する。衆議院では最初からやり直すことを原則としつつも実際には効率的に議事を進めている。。継続議案について会期ごとにゼロスタートとすることは審議として非効率であろう。1992年に成立したPKO法案は衆議院で議決後参議院において継続審査となり、次の会期において参議院で議決された後、衆議院では原則にのっとって委員会の提案理由から審査を始めた。しかし、野党の反対が非常に強い法案であったものの、わずか6日間で衆議院の(2回目の)審議を終了し成立している10)前項にて衆議院で修正された法案が参議院で継続された場合の扱いについて述べたが、これに関し、PKO法案(国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律案)は1991年の第122回臨時会において衆議院で修正議決され、参議院で継続された。このとき、参議院で継続されたのは修正された法案である。翌年の第123回常会の参議院においては、衆議院から送付された(修正された)法案を原案として審議が進められた。参議院でも(再度)修正議決され、衆議院に送付され衆議院で可決成立した。同じ会期で両院の議決が必要という国会法83条の5の手続きどおりに進められる一方で、最初の衆議院における法案の修正については会期をまたいでも生き残っているという扱いがなされている。なお、2度目(第123回常会)の衆議院での委員会での審査は質疑2日目に委員長からの質疑終局が可決され混乱の中で採決、本会議でも議院運営委員長解任決議案、牛歩等による抵抗があり、極めて異例の上程から3回にわたる本会議を経てようやく成立した。

脚注

脚注
本文へ1 伊藤博文「憲法義解」岩波文庫 1963年
本文へ2 議院法第25條 各議院ハ政府ノ要求ニ依リ又ハ其ノ同意ヲ經テ議會閉會ノ間委員ヲシテ議案ノ審査ヲ繼續セシムルコトヲ得
本文へ3 今野彧男「国会運営の法理」信山社 2010年
本文へ4 各員会に未だ付託されていない案件は、委員会から閉会中審査の申し出ができないため、会期末の本会議において所管する委員会で閉会中審査をすることを議決し、継続審査とすることもある。この手続きは院議閉中と呼ばれている。
本文へ5 2007年の日本国憲法の改正手続に関する法律改正に伴い、国会法102条の9第2項が定められている。憲法審査会に付託された案件についての第68条の規定の適用について、同条ただし書中「第47条第2項の規定により閉会中審査した議案」とあるのは、「憲法改正原案、第47条第2項の規定により閉会中審査した議案」とする、とされた。
本文へ6 国会法第83条
国会の議決を要する議案を甲議院において可決し、又は修正したときは、これを乙議院に送付し、否決したときは、その旨を乙議院に通知する。
2 乙議院において甲議院の送付案に同意し、又はこれを否決したときは、その旨を甲議院に通知する。
3 乙議院において甲議院の送付案を修正したときは、これを甲議院に回付する。
4 甲議院において乙議院の回付案に同意し、又は同意しなかつたときは、その旨を乙議院に通知する。
本文へ7 両院の議院規則は、憲法第58条第2項の「両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め」に基づき定められた議院内部の法規範であり、各々の議院の議決のみで効力を発する。法律案とは異なり、甲議院の議決後に乙議院に送付することや、公布をすることは要さない。
本文へ8 非核兵器ならびに沖縄米軍基地縮小に関する衆議院本会議決議(1971年11月24日)、核兵器不拡散条約採決後に衆議院外務委員会において採択された決議(1976年4月27日)、核兵器不拡散条約採決後に参議院外務委員会において採択された決議(1976年5月21日)、国際連合軍縮特別総会に関する第84国会・衆議院本会議決議(1978年5月23日)、核軍縮に関する衆議院外務委員会決議(1981年6月5日)、第2回国際連合軍縮特別総会に関する衆議院本会議決議(1982年5月27日)及び参議院本会議決議(1982年5月28日)
本文へ9 たとえば、すでに委員会において趣旨説明を行った法律案が継続審議となった場合、次の会期において、衆議院では趣旨説明を省略することを委員会で諮り合意を得たうえで進めるのに対し、参議院では委員長が先国会において既に趣旨説明を聴取しているので、すぐに次の議事である質疑に入ることを宣告する。衆議院では最初からやり直すことを原則としつつも実際には効率的に議事を進めている。
本文へ10 前項にて衆議院で修正された法案が参議院で継続された場合の扱いについて述べたが、これに関し、PKO法案(国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律案)は1991年の第122回臨時会において衆議院で修正議決され、参議院で継続された。このとき、参議院で継続されたのは修正された法案である。翌年の第123回常会の参議院においては、衆議院から送付された(修正された)法案を原案として審議が進められた。参議院でも(再度)修正議決され、衆議院に送付され衆議院で可決成立した。同じ会期で両院の議決が必要という国会法83条の5の手続きどおりに進められる一方で、最初の衆議院における法案の修正については会期をまたいでも生き残っているという扱いがなされている。なお、2度目(第123回常会)の衆議院での委員会での審査は質疑2日目に委員長からの質疑終局が可決され混乱の中で採決、本会議でも議院運営委員長解任決議案、牛歩等による抵抗があり、極めて異例の上程から3回にわたる本会議を経てようやく成立した。

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