国会の召集と会期(4)
─ 会期の決定
岸井和
2020.06.04
4.会期と議会運営上の原則
国会が召集され会期が決まると、国会は活動を開始する。会期は国会の活動の土俵の大きさにあたるもので、与野党の攻防の枠組みとなる。召集は多数党が組織する内閣が決定し、会期は多数党が支配する国会で決定するので、この決定のルールは政府与党にとって有利な制度となっている。政府の気の進まない野党提出の臨時会召集要求はほとんど無視される。また、政府主導の議事を審議する時間を確保するために与党が会期の延長を多数で決定する。
この土俵の中で、国会の議論を効率的に進めるための、あるいは与野党にとって公平な議事進行のためのルールが設定されている。こうした国会のルールは多岐にわたるが、その中で二つの大きなルールがある。会期不継続の原則と一事不再議の原則である。二つの原則は、帝国議会時代から引き継いでいるものであるが、現在の国会においても会期という枠の中での与野党の戦略に大きな影響を与えている。
特に、一つの会期が短い我が国ではこれらの原則の影響は大きい。
日本の国会は、常会、臨時会、特別会の区別なく、1947年の第1回国会から順番に番号が付されている。2020年の常会は第201回国会となる。73年で201回であるから、概ね年に3回弱召集されていることになる。これは何を意味するかというと、一つの会期が短いということになる。もちろん、会期延長を含め280日と長期であったこと(1962~63年の第71回特別会)もあれば、召集日に解散され1日であったこと(2017年第194回臨時会など)もあり、その会期ごとに多様ではあるものの、概ね一年を通じて議会が開かれている他国と比べた場合、日本の会期は細切れになっている。議案は次の会期には継続しないという会期不継続の原則により議案審議は会期ごとに途切れることから、与党は審議を急ぐことになり、野党は会期切れの廃案をもくろむ。また、一会期に一回しか同じ議事を扱えないという一事不再議の原則により、たとえば、野党にとって見せ場であり、大きな抵抗手段となる内閣不信任案の提出について、野党はそのカードを切るタイミングに腐心することになる。
しかしながら、会期制度を含めて、これらは絶対的なルールとはいえず、国によって異なっているし、現在の日本においても適用する議事内容や状況によって取り扱いが異なることがある。
(1)会期の決定
まず、土俵の設定となる会期の決定の手順についてみていきたい。
①会期決定までの手続
常会の会期は150日と法定されている(会期の途中で議員の任期が満限に達する場合には、その満限の日をもって会期は終了する(国会法10条))。これに対し、臨時会及び特別会の会期は、その都度国会が決定する。その決定は次のような手順で進められる。なお、民法の初日不算入の原則とは異なり、会期の日数は召集の当日から起算することとなっている(国会法14条)。これにより、国会における日数の計算はおおむね当日起算となっている(たとえば、予算の自然成立の30日は衆議院で議決され、参議院に送付された日から起算する)。
召集日の前、国会召集の閣議決定に先立ち、官房長官は衆参の議院運営委員会理事会にそれぞれ出席し、内閣として臨時会(特別会)を来る〇月〇日に召集することを決定する予定である旨を各院に通知する。それを受けて、官房長官退席後、つまり、政府は加わらずに、与野党の議員が召集後の当座の議事について協議を行う。その中で、会期についても協議がされる。会期については、まず、与党側から日数を提案する。野党はその提案を持ち帰って党内で検討する旨を告げるのが通常である。その次の議院運営委員会理事会で、野党は会期幅について、賛成か反対の意思とその理由を述べる。その後の手続きを経る中で会期幅について合意が得られないとしても、最終的には本会議の議決で、多数決で決定される。
臨時会、特別会の会期は召集日に議決する例となっている1)衆議院先例集2(平成29年版)、参議院先例録18(平成25年版) 。ここでは、臨時会召集日における会期決定までの流れをみてみる。まず、衆議院の議院運営員会理事会で会期の件が協議される。意見の一致することもあれば、しないこともある。続いて、常任委員長会議が開かれる。衆議院規則において「臨時会の会期は、議長が各常任委員長の意見を徴し参議院議長と協議した後、議院がこれを議決する(20条1項)」と定められている。議院運営委員会も常任委員長会議も議長の諮問機関であるが、前者は各政党の立場から会期の長さについて議論・協議をする場、後者は中立公平な委員長による委員会運営上の都合から会期の長さについて諮問する場ということが建前である。参議院では常任委員長懇談会2)衆議院の常任委員長会議はその名のとおり常任委員長のみが対象であるのに対し、参議院の常任委員長会議は常任委員長のほか、特別委員長、調査会長、憲法審査会会長も出席している。(参議院先例録17(同上)、参議院委員会先例録379(平成25年版) ) という名称で同様の手続がとられるが、規則において「…その会期における立法計画に関して、予め各常任委員長の意見を聴かなければならない(22条)」と、その趣旨を明確に記している。しかし、議院運営委員会も常任委員長の会議も与野党の政治的利害で議論は進んでいる。
常任委員長会議は議長が開き、議院運営委員長が座長を務める3)衆議院委員会先例集324、326(平成29年版) 。会議の場においては、与野党各1名の委員長から会期幅について意見を聴取する。常任委員長は与党議員が圧倒的に多く、与党内の主張は同じであるから代表して1名(当選回数、年齢の関係から予算委員長あるいは国家基本政策委員長であることが多い)とするのが通常である。したがって、建前とは異なり、議院運営委員会理事会とほぼ同じ内容の主張が繰り返される。議会運営は手続きに則って進められることは重要であるとはいえ、現状では形式的な手続きに過ぎず、重複しているだけとの批判もある。この会議では採決はしない。数分で終了し、意見が一致した、あるいは一致しないとの答申を議長にするだけである。
常任委員長会議が終わると、議院運営委員会が開かれる。ここでは、理事会と常任委員長会議の議論の内容が報告され、採決により会期幅について衆議院議長に答申することを決定する。
衆議院の議院運営委員会で会期幅について議長への最終的答申が決められると、衆議院議長は参議院議長と協議することとなる。しかし、実際に両院の議長が顔を合わせて協議するのではなく、事務的に衆議院から参議院に対し衆議院の会期幅を伝達する4)かつては、両院の議長が直接に会談することも少なくなかったが、1995年の第134回臨時会を最後に会談は行われていない。。参議院においては、衆議院からの伝達内容を斟酌しつつ、議院運営委員会理事会、常任委員長懇談会において協議が行われる。参議院の結果が出ると、参議院から衆議院に回答がある。参議院においても衆議院の決定と同様に取り計らう、あるいは、参議院は意見が一致せず会期の議決は行わない、といった内容である。それを受けて、両院、あるいは衆議院の本会議において会期の議決が行われ、決定されるという運びとなる。こうした各院における協議、両院をまたいだ手続きがあるため、順調に進んでも2時間は必要となる。
総選挙後の特別会の召集日時点においては、衆議院においては議院運営委員会は機能を開始しておらず、また、常任委員長も選出されていない。そこで、議院運営委員会に代わる各派協議会において協議し、常任委員長会議は開かれることなく、参議院議長と協議をする5)総選挙後の特別会においては、会期を決定する時点において、議長は選出されているが、常任委員長が選任されておらず、議院運営員会も活動をしていない。したがって、常任委員長会議は開かれず、議院運営委員会に代わり各派協議会(各会派の代表者からなる会議)において協議が行われる。(衆議院委員会先例集2(同上) ) 。参議院は常任委員長懇談会、議院運営委員会を開く。その後、各院の本会議で議決される(衆議院規則20条2項、参議院規則22条)。なお、参議院の通常選挙後に初めて開かれる臨時会の会期を決定する際は、参議院は常任委員長懇談会を開かないが6)参議院先例録17(同上)、参議院委員会先例録381(同上) 、その他の手続きに通常の場合との違いはない。
②会期決定についての衆議院の優越
臨時会、特別会の会期の決定は、両院一致の議決で定めることとなっている(国会法11条)。会期については、両院議長の協議が定められてはいるが、これは現在では形式的なものに過ぎず、また、一般の議案のように議案の送付関係にはないので、各院が別個に議決し、その結果が同一となることが原則である(ただし、議決の結果をその日のうちに他院と内閣に通知は行う7)衆議院先例集7(同上)、参議院先例録30(同上) ) 。さらに、両院の議決が一致しない場合にも両院協議会のような両院関係を調整する制度は存在しないことから、衆議院の議決の優越を国会法で定めている(13条)。
この点、内閣総理大臣の指名についても衆参間の案件の送付はないものの、憲法で両院協議会の開会を経ての衆議院の優越を定めている点において会期決定とは異なる。同意人事8)日本銀行総裁、原子力規制委員会委員長、日本放送協会経営委員会委員、人事官、検査官等の内閣が国会の同意または承認を求める法律上の規定のある国家公務員等の人事が同意人事と言われ、しばしば与野党間で意見の相違がみられ政治問題化することもある。についても送付関係はなく、両院一致の議決(同意)が必要であるが、この場合は衆議院の優越規定はなく、また、他の両院間の調整方法もないため、ねじれ国会の時にしばしば問題になったように衆議院で同意・参議院で不同意の場合は国会全体の意思として不同意となる9)衆議院先例集369(同上) 。会期の決定において両院の議決が不一致の場合も、同様に国会全体として意思決定できないとなると、国会の活動が行えないという不都合が生じるがために、衆議院の議決を優先する規定が設けられている。
したがって、「両議院の議決が一致しないとき、又は参議院が議決しないときは、衆議院の議決したところによる(国会法13条)」とし、議決が一致しないときと参議院が議決しないときは、衆議院の議決が優越し、国会全体の意思として衆議院が議決した会期が決定される。
参議院において会期を決定しないことはしばしばある10)衆議院先例集6(同上)、参議院先例録20(同上) 。2019年までに12回の例があり、平成以降では1989年(第115回臨時会)、2008年(第170回臨時会)、2010年(第175回臨時会)、2011年(第178回臨時会)、2012年(第181回臨時会)の5回であり、いずれも衆参ねじれの状況の時である。また、衆参で会期幅が異なって議決されたのは1992年(第125回臨時会)の1回のみである(衆議院は40日、参議院は50日)。
③会期決定についての衆参の考えの違い
前述のように会期は召集日に決めるのが原則ではあるが、様々な理由から召集日に決められないこともある。
この例は、第1回特別会(1947年)と第127回特別会(1993年)の2回ある。召集日に会期を決められないとすると、その翌日は果たして会期内なのか、という疑義が生じる。会期決定の衆議院の優越を考えれば、衆議院で会期を決められない場合である。召集日については、国会が召集されたその日は会期内であるとしないと、国会の活動はすべて不可能となってしまうので、当然に会期内とせざるをえない11)第105回臨時会(1986年)、第137回臨時会(1996年)、第194回臨時会(2017年)においては、召集日に衆議院が解散されたため、会期を決定するに至っていない。(※この3例のみ) 。しかし、翌日はどうなるのか?
1993年の例を見てみる。召集日に会期が決められなかったのは、総選挙の結果、非自民勢力が政権をとることが確実となる中、国会運営の方法、衆議院議長の選任基準と会期幅について連立側と自民側の意見が強く対立したことによる12)協議を行う各会派の構成(連立側の会議参加者は1人なのか、各会派からそれぞれ1人なのか)、議長選出の基本的考え(議長は政権与党から出すのか、第1党から出すのか)、会期幅(首班指名だけを行うための10日間か、その後所信演説と質疑を行うために20日間なのか)などを巡り、連立側と自民側の意見が対立した。(1993.8.6 朝日新聞、毎日新聞) 。このため、議長選挙、会期の決定、首班指名などの召集日(8月5日)に行うべき重要な議事が行えなくなり、翌日に持ち越すこととなった。そこで、2日目以降が会期内か否かの疑念を払うために、衆議院では召集日の本会議で議事日程を翌日に延期する手続きを行っている(この手続きは、議長がいないため、事務総長が議長の職務を代行した)。つまり、会期は決まっていないが、翌日も国会は活動しますという意思を本会議で示している。他方で、参議院本会議では議席の指定を行ったのみで休憩が宣告され、その後開会されることなくそのまま散会している。翌日以降への含みはみられない。
なにゆえに、衆参で対応が分かれたのか。それには会期に関する考えの相違がある。衆議院では、会期はあらかじめ決定すべきものであり、その範囲で国会の活動能力の根拠が与えられるとする。したがって、会期が決定できない場合、少なくとも召集日の翌日が会期内であるとの意思表示しなければならない。参議院では、召集によって活動能力は与えられ、会期はそのまま進行し、会期の決定はその終期を決定するものであると考える。したがって、会期は召集日に決めなければならないわけではなく、召集日翌日も当然に会期内となる。しかし、衆議院で会期を議決しても、参議院の考えに立って会期の議決がしばらく行われないと、「衆議院の優越規定」をいつ発動したらよいのかわからなくなるという不都合が理屈上は生じる。そこで、実際には、参議院の会期も「召集日に議決するのを例とする(参議院先例録)」とされている13)1960年代までは衆議院が召集日に会期決定の議決をしたにもかかわらず、参議院においてはその翌日以降に会期の決定をしていたことがしばしばあったが、その際はいずれも衆議院で議決した会期と一致していた。。また、参議院で議決しない場合も衆議院にその旨が通知されており、参議院の態度が不明であるがゆえに会期が決まらないという事態は生じていない。
脚注
本文へ1 | 衆議院先例集2(平成29年版)、参議院先例録18(平成25年版) |
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本文へ2 | 衆議院の常任委員長会議はその名のとおり常任委員長のみが対象であるのに対し、参議院の常任委員長会議は常任委員長のほか、特別委員長、調査会長、憲法審査会会長も出席している。(参議院先例録17(同上)、参議院委員会先例録379(平成25年版) ) |
本文へ3 | 衆議院委員会先例集324、326(平成29年版) |
本文へ4 | かつては、両院の議長が直接に会談することも少なくなかったが、1995年の第134回臨時会を最後に会談は行われていない。 |
本文へ5 | 総選挙後の特別会においては、会期を決定する時点において、議長は選出されているが、常任委員長が選任されておらず、議院運営員会も活動をしていない。したがって、常任委員長会議は開かれず、議院運営委員会に代わり各派協議会(各会派の代表者からなる会議)において協議が行われる。(衆議院委員会先例集2(同上) ) |
本文へ6 | 参議院先例録17(同上)、参議院委員会先例録381(同上) |
本文へ7 | 衆議院先例集7(同上)、参議院先例録30(同上) ) |
本文へ8 | 日本銀行総裁、原子力規制委員会委員長、日本放送協会経営委員会委員、人事官、検査官等の内閣が国会の同意または承認を求める法律上の規定のある国家公務員等の人事が同意人事と言われ、しばしば与野党間で意見の相違がみられ政治問題化することもある。 |
本文へ9 | 衆議院先例集369(同上) |
本文へ10 | 衆議院先例集6(同上)、参議院先例録20(同上) |
本文へ11 | 第105回臨時会(1986年)、第137回臨時会(1996年)、第194回臨時会(2017年)においては、召集日に衆議院が解散されたため、会期を決定するに至っていない。(※この3例のみ) |
本文へ12 | 協議を行う各会派の構成(連立側の会議参加者は1人なのか、各会派からそれぞれ1人なのか)、議長選出の基本的考え(議長は政権与党から出すのか、第1党から出すのか)、会期幅(首班指名だけを行うための10日間か、その後所信演説と質疑を行うために20日間なのか)などを巡り、連立側と自民側の意見が対立した。(1993.8.6 朝日新聞、毎日新聞) |
本文へ13 | 1960年代までは衆議院が召集日に会期決定の議決をしたにもかかわらず、参議院においてはその翌日以降に会期の決定をしていたことがしばしばあったが、その際はいずれも衆議院で議決した会期と一致していた。 |
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