国会は機能しているのか?(1)―なぜ、国会は報告書を作らないのか?
岸井和
2023.04.06
国会が法規や付帯決議などに基づいて政府に報告書の提出を求めるケースは非常に多い1)法律に「報告書を国会に提出しなければならない」「国会に報告しなければならない」等の定めがある場合は当然両院に同じ報告書を提出する。また、附帯決議は各院の委員会毎に行うが、多くの場合は両院で同じような内容であるため、附帯決議に基づく場合でも結果的に両院に同様の報告を行うことになる。。衆議院ホームページで確認できるだけでも2022年においては年間で110件以上の報告が各省から国会に提出、公開されている。国会が国政の状況を把握し、行政を監視し、国会審議を実効的なものとするとともに、国政に関する情報を広く公開するうえで政府から報告書を受けることには意義がある。
ところが、国会が提出する報告書は定型的なものを除くと非常に少ない。定型的なものとは、法規で定められた委員会が議長に提出するものが主であるが、手続き的なものが中心で実質的な意味のあるものは少ない。あるいは、たまに実質的内容のある報告書が提出されることもあるが、それすらも国民の目に触れることがほとんどない。衆参のホームページで「報告書」と検索してみてもらいたい。誰も見られない報告書に何の意味があるのか。国会の情報公開に向けた意欲は低く、法定されている会議録や文書は公開されているものの、公開の義務がないものについては国会はえてして秘密主義である。
1委員会の議案審査と国政調査
国会の活動は大きく分けて本会議と委員会において進められる。最終的な審議、意思決定は本会議で、その前段階の予備的な詳細にわたる審査は委員会で行われる。委員会中心主義といわれるゆえんである。
その委員会の議論は議事手続上のもの、請願などを除き概ね「議案審査」と「国政調査」に分かれている。議案審査では付託された法案などを審査し、国政調査では所管事項について調査を行う。委員会を開く際には委員長は議題となるのが議案審査か国政調査かの「案件(議案と調査案件の総称)」を明示する。たとえば、予算委員会では「総予算3案」(議案審査)か「予算の実施状況に関する件」(国政調査)を議題として議論を展開することとなる。
委員会の国政調査は主として一般質疑ともいわれるもので(予算審査の一般的質疑とは異なる)、委員会の場で政府に質問するものであり、その会議録は公開されている。ただし質問しっぱなしであり、調査の結果は示されず、体系的なものはなく、委員会としてどのような見解をとるのかも明らかではない。調査の成果について報告書が提出されることは稀であり、その報告書が公開されることもほとんどない。委員会の場を離れ、委員派遣という形で議院の了解を得て国内、国外に出張する時でさえ、内容のある報告書が提出されることは少ない。衆議院の閉会中審査報告書、参議院の国政調査報告書は恥ずかしいような内容である。委員会の調査の問題点は後述する。
一方で議案審査の場合は法定されているため外形的な成果が示される。委員会が案件について審査又は調査を終了したときは報告書を作り、議長に提出しなければならない(衆参の規則2)衆議院規則第86条 委員会が付託案件について審査又は調査を終つたときは、議決の理由、費用その他について簡明に説明した報告書を作り、委員長からこれを議長に提出しなければならない。
参議院規則第72条 委員会が案件の審査又は調査を終つたときは、報告書を作り、委員長からこれを議長に提出しなければならない。
※なお、国会法第53条「委員長は、委員会の経過及び結果を議院に報告しなければならない」の「報告」は委員長が本会議で口頭で報告することを定めたものであり、報告書の提出は上記の両院の規則に基づく。 )。国会内は文書主義であり、この報告書をもって委員会の審査・調査が終了したこととなり、本会議へと進むこととなる。
①議案審査の報告書
議案審査においては委員会報告書(○○法案に関する報告書)という報告書が手続き的で事務的なものに過ぎないが重要となる。委員会審査が終了し本会議の審議の準備が整ったことを意味し、委員会報告書が提出されると、それを受けて本会議の議題となることが決められる。委員会報告書は委員会が作成し議長に提出されるが、通常は議案採決の後に委員長に作成を一任する議決を行う。強行採決で混乱に陥っていても報告書作成一任の議決は必ず行う。
ただ、本会議では委員長が議案の概要、審査の過程、採決の結果を口頭で報告(委員長報告)しており、報告書は実際に活用されているとは言えない。委員会採決と本会議採決が同日になる場合(緊急上程)には、本会議終了後事後的に報告書が配付されることさえある。なお、報告書は本会議録に掲載はされている。
➁特殊な調査案件と報告書
・参議院の調査会と行政監視委員会
通常の委員会とは異なる国会の調査機関で、参議院の調査会と行政監視委員会及び各院の情報監視審査会はその活動内容に関し毎年報告書を提出している。これらは、その活動実態から報告書を提出せざるを得ない側面もある。とはいえ、参議院の調査会と行政監視委員会は国会において最も調査成果を具体的にまとめた報告書を作成しているといえよう。
参議院の調査会は、参議院改革協議会の答申に基づき1986年の国会法改正で設置された3)国会法第54条の2 参議院は、国政の基本的事項に関し、長期的かつ総合的な調査を行うため、調査会を設けることができる。
※1986年に外交・総合安保、国民生活、産業・資源エネルギーの3調査会が設置されて以降、通常選挙ごとにテーマ(名称)を変え、国際問題、行財政制機構・行政監察、共生社会、国民生活・経済、少子高齢社会、経済・産業・雇用、国際・地球温暖化問題、少子高齢化・共生社会、国債・地球環境・食糧問題、共生社会・地域活性化、国民生活・経済・社会保障、国の統治機構、デフレ脱却及び財政再建、国際経済・外交、資源エネルギーの調査を行ってきた。選挙会期毎に3調査会が設置されるのが通例である。。参議院議員の任期が長いことから、議案の審査ではなく長期的総合的な調査を行うことを目的とする。調査に基づき法案を提出したり、法案の提出を勧告することもできる。現在では「外交・安保」「国民生活・経済・地方」「資源エネルギー・持続可能社会」の3調査会が設置されている。
調査会では調査事項に関して毎年調査報告書を提出している。参議院規則で「調査会は、調査事項について、調査の経過及び結果を記載した報告書を作り、調査会長からこれを議長に提出するものとする」とされている。調査が主体の組織であり、また、その設置の経緯からしても、何らかの提言、報告書を提出しなければその活動の実態が不明となってしまうから報告書の提出は義務的になっている。報告書については参議院のホームページでも公開されている。
1997年には「行財政機構・行政監察調査会」が行政監視のための常任委員会を設置すべきとの報告書を提出し、それに基づき行政監視委員会が設置されている。行政監視委員会も調査委員会であるが、2020年からは参議院規則により少なくとも年に1回報告書を提出することとなっている4)参議院規則第74条の5 行政監視委員会は、計画的、継続的かつ効果的な行政監視に資するため、少なくとも毎年1回、その実施の状況等(勧告を行う必要がある場合には、その旨を含む。)を議院に報告するものとする。(同様の規定がある常任委員会は他にはない)。衆議院も同じ1997年の国会法改正で決算委員会を決算行政監視委員会に改組しているが、参議院のような報告書の提出は法定されておらず、行ってもいない。
・情報監視審査会
情報監視審査会は、政府の特定秘密の扱いの適否を常時監視する機関として2014年の国会法改正5)国会法第102条の13 行政における特定秘密及びその解除並びに適性評価の実施の状況について調査し、並びに各議院又は各議院の委員会若しくは参議院の調査会からの第104条第1項の規定による特定秘密の提出の要求に係る行政機関の長の判断の適否等を審査するため、各議院に情報監視審査会を設ける。で各院に設置された。常任、特別委員会とは異なり議案の審査は行わず、特定秘密6)行政機関の長は、当該行政機関の所掌事務に係る別表に掲げる事項に関する情報であって、公になっていないもののうち、その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるものを特定秘密として指定するものとする。(特定秘密の保護に関する法律第3条第1項)に関する調査を行う。特定秘密を取り扱うため、閉ざされた部屋で非公開で開催され、また委員が特定秘密の内容を漏洩すれば処罰される。情報監視審査会規定に基づき年に1回は議長に対し審査報告書を提出することとなっている。審査会は原則として傍聴も認められず、会議録は作成されるが閲覧できないため、報告書を提出しなければその活動内容は全く分からないことになる。報告書はホームページに公開されており活動していることはわかるものの議論の具体的内容は全く分からない。
・海外派遣の報告書―参議院の優越
衆議院よりも参議院の方が調査報告書を作成し、それらは公開されている。参議院では上記の調査会報告書、海外派遣の報告書、参議院改革協議会の報告書などの報告書が提出され、ホームページ上で公開されている。
近年はコロナの影響により海外派遣はほとんどないが、海外派遣の報告書は、いわば国費(外国旅費として両院合計で毎年6億円近い予算が計上されている)による海外出張の報告書のようなものであり、作成するのが当然ともいえよう。参議院では各委員会は報告書を作成し公開している。特に、参議院改革協議会の提言を受けODAの実施状況を調査するために政府開発援助調査議員団を海外に派遣するようになり、それを進めて特別委員会を設置し委員会として各国に調査派遣を行うようになった。参議院の独自性を示すための方策であり、衆議院には同様の制度はない。毎年4班が海外に派遣されて派遣報告書が提出される。
他方で、衆議院もコロナ前は毎年何班も海外派遣に行っていたものの報告書は作成されていないのか、少なくとも公開されていない。かろうじて、近年では「チェルノブイリ原子力発電所事故等調査議員団報告書(2011年)」「欧州各国憲法及び国民投票制度調査議員団報告書(2013、14、17、20年)」が提出され、公開もされている。これらはそれなりの内容があるが、稀な例としか言いようがない。他の数多くの海外派遣は一体何をしてきたのか、逆に疑問に思われる。
各院ともさまざまな国際会議にも議員を派遣している。衆議院では、G7下院議長会議、IPU(列国議会同盟)会議、APPF(アジア太平洋議員フォーラム)、日本EU議員会議などの概要は報告され、公開されている。しかし、会議の資料の一部を転載した程度のものである。参議院は、IPU会議、WTO議員会議、COP議員会議、APPF会議、G20国会議長会議、日中議員会議、日米議員会議、ASEAN議員会議など結果概要として衆議院よりも充実した報告書的なものが公開されている。
・参議院改革協議会
参議院改革協議会は委員会等とは別の機関であるが、河野謙三議長時代の1977年に設置されて以来、参議院の独自性を模索することを主な目的として議長の下の協議会として活動を続け、答申、報告を提出してきた。そこでは、決算審査、行政監視、ODA調査、押しボタン投票、参議院の選挙制度など広範な問題について協議し、一定の結論を出し、改革が実現したものも少なからずある。
ここで重要なことは党派を超えて参議院として一定の結論を出し議長に答申、報告書を提出し、改革へと進めることに成功することもあるということである。各会派から協議員が出席する議長の諮問機関ではあるが、参議院の存在の危機感から、協議をしてもまとまらないという事態をなるべく避けて改革実現を進めようとしている。さらに、その答申、報告書は公開されており、参議院が衆議院よりも情報公開を進めようとする意志がうかがえる。
・決算審査
決算は調査案件ではないが特殊な性格を持っている。憲法の規定により、国の決算は会計検査院の検査報告書とともに内閣が国会に提出する7)憲法第第90条 国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。。両院それぞれが審査し、最終的には各院が別々に「是認するか否か」を議決する。決算の法的性格の議論はともかく、実際には事後の報告案件的なものとして扱われ、国会審議によって予算執行責任者である内閣の責任を明らかにし、その後の予算や政策に反映させる目的である。しかしながら、「是認しない」としても、もともと法規範性のない案件であり、内閣の責任の取り方は曖昧であり、また、決算審査の時には別の政権に交代していることもある。各院で結論が異なることもある。
したがって、単純に是認するか否かを議決するだけでは実質的意味がない。そこで、衆議院では議決案(不当、不法事項を指摘しそのほかについては異議がないという議決案)を議決し、参議院では是認とともに問題点を指摘した警告決議案を議決している。議決案、警告決議案と称してはいるものの、そこでは明らかになった問題点を指摘する、一種の委員会審査の報告書としての性格を有している。これは決算という案件の持つ特殊性に基づいている。(参議院では改革協議会の答申を受けて決算審査の充実を図り早期審査を行っている。一方衆議院では決算審査に積極的でなく、数年遅れで複数年度の決算を一括して処理することが慣例化している。)
脚注
本文へ1 | 法律に「報告書を国会に提出しなければならない」「国会に報告しなければならない」等の定めがある場合は当然両院に同じ報告書を提出する。また、附帯決議は各院の委員会毎に行うが、多くの場合は両院で同じような内容であるため、附帯決議に基づく場合でも結果的に両院に同様の報告を行うことになる。 |
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本文へ2 | 衆議院規則第86条 委員会が付託案件について審査又は調査を終つたときは、議決の理由、費用その他について簡明に説明した報告書を作り、委員長からこれを議長に提出しなければならない。 参議院規則第72条 委員会が案件の審査又は調査を終つたときは、報告書を作り、委員長からこれを議長に提出しなければならない。 ※なお、国会法第53条「委員長は、委員会の経過及び結果を議院に報告しなければならない」の「報告」は委員長が本会議で口頭で報告することを定めたものであり、報告書の提出は上記の両院の規則に基づく。 |
本文へ3 | 国会法第54条の2 参議院は、国政の基本的事項に関し、長期的かつ総合的な調査を行うため、調査会を設けることができる。 ※1986年に外交・総合安保、国民生活、産業・資源エネルギーの3調査会が設置されて以降、通常選挙ごとにテーマ(名称)を変え、国際問題、行財政制機構・行政監察、共生社会、国民生活・経済、少子高齢社会、経済・産業・雇用、国際・地球温暖化問題、少子高齢化・共生社会、国債・地球環境・食糧問題、共生社会・地域活性化、国民生活・経済・社会保障、国の統治機構、デフレ脱却及び財政再建、国際経済・外交、資源エネルギーの調査を行ってきた。選挙会期毎に3調査会が設置されるのが通例である。 |
本文へ4 | 参議院規則第74条の5 行政監視委員会は、計画的、継続的かつ効果的な行政監視に資するため、少なくとも毎年1回、その実施の状況等(勧告を行う必要がある場合には、その旨を含む。)を議院に報告するものとする。 |
本文へ5 | 国会法第102条の13 行政における特定秘密及びその解除並びに適性評価の実施の状況について調査し、並びに各議院又は各議院の委員会若しくは参議院の調査会からの第104条第1項の規定による特定秘密の提出の要求に係る行政機関の長の判断の適否等を審査するため、各議院に情報監視審査会を設ける。 |
本文へ6 | 行政機関の長は、当該行政機関の所掌事務に係る別表に掲げる事項に関する情報であって、公になっていないもののうち、その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるものを特定秘密として指定するものとする。(特定秘密の保護に関する法律第3条第1項) |
本文へ7 | 憲法第第90条 国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。 |
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