国会の予算審議(6)

国会の予算審議(6)
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時代区分による審議傾向

岸井和
2019.12.12

Ⅵ 時代区分による審議の傾向

表2は、各年別の表1の全期間及び第1期から第3期ごとに総予算の「衆議院審議期間」「衆議院委員会審査日数」「参議院審議期間」「提出~成立までの日数(総審議期間)」の平均値をとったものと、「年度を越えての成立回数」「暫定予算の回数」を表にしたものである。

  • 全体としては、総予算提出から衆議院委員会での審査入りまでの「本会議での政府4演説と質疑」は概ね7日間かかり、「衆議院審議期間(38日)」、「参議院審議期間(27日)」とあわせ、提出から成立までは平均72日間程度かかっている。年度内成立はほぼ50%で、暫定予算に至るのは33%である。
  • 参議院の審議期間は、第3期には若干の減少が見られるものの、ほぼ一定の期間の審議期間がとられている。
  • 第1期については、総予算はほぼ年度内に成立し、年度を越えた場合でも次年度当初には成立し、暫定予算に至ったケースはない。第3期と比較すると、「衆議院審議期間」はほぼ同じ水準であるが、「衆議院委員会審査日数」は長い。
  • 第2期においては、「衆議院審議期間(43日)」と「総審議期間(78日)」は第1期よりも大幅に長くなる(それぞれ、12日増、3日増)。しかし、「衆議院委員会審査日数(23日)」は第1期と比べて大きな相違はない。つまり、委員会が開かれずに審査が空転していた時間が長いことが見受けられる。そのため、年度を越えての成立が85%であり、暫定予算に至った回数も多い。
  • 第3期については、「衆議院委員会審査日数」が大きく減り、年度内成立が増加し、暫定予算に至る回数も減少傾向にある。
  • 第1期と比較すると、「衆議院審議期間(32日)」とほぼ同水準であるが、「総審議期間(64日)」はやや減っている。参議院の審議期間が若干減少しているためである。しかし、第3期の「衆議院委員会審査日数(18日)」は5日間ほど少ない。これは分科会の日数の減少や第1期と第2期には開かれていた土曜日に審査が行われなくなった影響も考えなくてはならない1)公聴会についても、2007年までは1968年、94年、2000年を除き2日間開かれていたが、第3期途中の2008年以降は1日間のみのとなっている。
  • 第2期と比較すると「衆議院審議期間」は12日間、「衆議院審査日数」は5日間、「総審議期間」は15日も短くなっている。大きな変化であるが、与野党の審議方針の変化のみならず、審査方式の変更2)Ⅰ1(1)参照の影響も考えるべきであろう。
  • この時期、参議院の審議期間が若干短くなったのは、通常参議院は、衆議院の審議時間実績を見ながら審議予定を組むことと、衆議院と同様に審査方式が変わったこと、与野党の関係性が全体として非妥協的になってきたことなどが理由であろう。

年ごとの個別の事情はあるものの、審議期間や年度内成立については、第1期から第3期まででそれぞれの特徴がみられる。単純化していえば、第1期、第3期の政権交代の可能性を持つ与野党が対立している時期は審議期間が短く、与野党が馴れ合いの時期は審議時間が長くなっている。それは、審議日程が淡々と進められていく時期、国会運営がドライな時期(第1期、第3期)と審議日程を裏で取引しながら進めていく時期、国会運営がウェットな時期(第2期)とで、時間的コストが大きく異なるということが一つの要因であると思われる。

総予算審議については特殊性がある。提出権が内閣に限られていること、与党内の意見が割れにくく結束力が特に強いこと、野党としても審議未了や否決といった選択肢をとりにくいこと、参議院における審議期間が限られ、また衆議院の議決が優越することなどは他の議案とは全く異なるものである。

とはいえ、これらの外形的条件は戦後一貫して同一であるにもかかわらず、それぞれの時期によって「審議期間」の傾向は大きく異なっている。第1期においては、他の議案では与野党が激しい対立を繰り返していたが、それは総予算審議についていえば現れていない。社会党にとって政策全体の相違を象徴する議案ではあったのは確かだが、その存在意義にかかわる安保や社会保障のような琴線に触れる議案ではなかったということになる。

与党が年度内成立を常に目指すことを前提にすれば、第2期における野党の粘着性は際立っている。この時期、与野党のイデオロギー対立は徐々に希薄化しており、総予算審議は分け前、分配の調整のための取引の場となっていた。そのための駆け引きの時間とメンツを立てる時間は必要であったが、決定的対立は若干の例外(大スキャンダル、売上税の時など)を除き避けられていた。

しかし、第3期の粘着性は、第2期よりも大幅に、第1期と比べても低下している。直接的な要因としては、(社会党の衰退による)国会内の会派構成の変化、イメージの悪かった国対政治の変容、有権者の批判を回避するための野党の抵抗手段の制約、与党の国会運営に対する非妥協的傾向が強まったことなどが考えられる。

近年の予算委員会では、理念や利益配分をめぐる論争よりも、行政の適正性、透明性、効率性などの問題(住専、薬害エイズ、年金問題、規制緩和、森友・加計など)が焦点となることが多くなった。つまり、与野党の埋めがたい理念的対立がなくなるだけでなく、野党の「表では反対裏では取引」的な実利的な妥協も減るとともに、どちらが行政をより賢明に運営できるかの問題に移ってきている。与野党の政策的均質性はかつてよりも高まったが、「政権交代可能」という相互の期待感と危機感からかえって交渉の余地は狭まり、粘着性の高い予算審議は困難になってきたことが背景にあると思われるが、総予算審議のみで結論付けることも性急すぎるであろう。

(この項、終わり)

【主な参考文献】

「自民党」一強の実像 中北浩爾  中公新書 2017

「政権交代」民主党政権とは何であったか 小林良彰 中公新書 2012

「首相支配」日本政治の変貌 竹中治堅 中公新書 2006

「自民党」政権党の38年 北岡伸一 中公文庫 2008

「自民党政権」佐藤誠三郎 中央公論社 1986

「新・国会事典」第2版 浅野一郎 有斐閣2008

「日本の国会」審議する立法府へ 大山礼子 岩波新書2016

「国会と政治改革」 前田英昭 小学館文庫2000

「平成史講義」 吉見俊哉編 ちくま新書2019

「平成政権史」芹川洋一 日経プレミアシリーズ 2019

「日本政治の対立軸」大嶽秀夫 中公新書1999

「政策会議と討論なき国会」 青木遥 朝日新聞出版 2016

エピソードで綴る「国会の100年」前田英昭 原書房 1990

「衆議院の動き」衆議院調査局編 平成30年 第26号

「議会制度百年史」衆議院・参議院編 1990

「憲法義解」伊藤博文 岩波文庫 昭和38年

「戦後政治史」石川真澄 岩波新書 2013

「日本人らしさの発見」芳賀 大修館 2013

衆議院先例集

衆議院委員会先例集

参議院先例

衆議院調査局編 論究各号

参議院「審議概要」

武蔵勝宏「国会審議の効率性と代表制」2016

木下健「過去20年間の衆参予算委員会における与野党対立構造の分析」

内田健三「政党内・間の手続き」年報政治学1985

脚注

脚注
本文へ1 公聴会についても、2007年までは1968年、94年、2000年を除き2日間開かれていたが、第3期途中の2008年以降は1日間のみのとなっている。
本文へ2 Ⅰ1(1)参照

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