国会審議における議員立法(1)

国会審議における議員立法(1)
─ 議員立法とは?

岸井和
2020.01.20

1議員立法とは?

(1) 議員提出法律案

国会の審議の前提となる法律案を提出できるのは内閣か国会議員のどちらかである。会期中であればいつでも提出することができる。どちらから提出された法律案も、原則として衆議院と参議院とで可決された時に法律として成立する。提出者による法律制定過程の相違はないし、成立すればどちらも同じ法律となる。

内閣は、衆議院か参議院かのどちらかに法律案を「提出」できる。提出された院は「先議」の院ということになる。ただし、予算に関係がある法律案は、先に衆議院に提出される例である1)衆議院先例集平成29年版。予算については衆議院が先議権を有することから予算関連法案も先に衆議院に提出するということである。予算関連ではない法律案についても全体として内閣提出法律案は衆議院で先議される場合が多いが、会期当初に衆参の議院運営委員会で協議してどの法律案を参議院先議とするかを決めている2)閣法については衆議院先議が基本となるが、与党は、全体的な審議日程や議案の内容などを考慮して、会期の初めに議院運営委員会理事会において、参議院先議の議案を提案する。その後、与野党の協議により参議院先議法案が決められ、内閣はその決定に沿って衆議院か参議院のどちらかに法案を提出する。。内閣提出法律案は閣法と省略して呼ばれている。

他方、議員は、その所属する議院に法律案を「発議」することができる(国会法56条1項)。法律案の発議者の人数は1人以上であれば制限がない。また、発議には賛成者が必要となる。議員によって発議された法律案が、一院で可決されて他院に送られることを議院が法律案を「提出」するという。つまり、衆議院議員が法律案を発議し、衆議院で可決されると参議院に送付されるが、参議院では「衆議院提出法律案」として扱われ、逆の場合も同様である。

しかし、実際には議員発議という言葉ではなく、最初に提案した時点から議員提出法律案として呼ばれることも多い。衆議院では、提出法案には、その法案名に続いて「○○君外△名提出」と記載されている。また、議員発議の法律案には、発議者と賛成者の連署した「右の議案を提出する」との提出文を添付しており、法律上と実際上の発議と提出との使い分けが必ずしも明確ではない。他方で、参議院では「〇〇君外△名発議」と法規に沿った形の記載になっている。ここでは、衆参の統一性と一般的用語の観点から「提出」という言葉を中心に用いる。

衆議院議員提出または参議院議員提出の法律案をより簡略化して、また、広範囲にとらえて「議員立法」と言われることが多い。議員立法は成立した議員提出法律案のみならず、議員から発議される法案については議員立法と呼ばれる。議員立法は法律用語ではなく、一般的に使われる用語である。さらに、衆議院議員提出の議員立法は「衆法」、参議院議員提出の議員立法は「参法」と簡略化して呼ばれている。

また、個々の議員ではなく、委員会として、その所管に属する事項に関する法律案を「提出」することができる(国会法50条の2)。「委員会提出法律案」と呼ばれ、議員立法の一形態である。この場合は、法律上の用語としては、発議ではなく、提出である。内閣、議院、委員会といった機関が提案する場合は「提出」、議員が提案する場合は「発議」と使い分けをしているが、実際には両方ともに「提出」と呼ばれることも多い。

法律案の提出者による区分
内閣提出(閣法)    
議員提出 衆法 衆議院議員発議(提出) 賛成者20人以上、予算を伴う法律案は50人以上
衆議院の委員会提出 各委員会での議決
(議員立法) 参法 参議院議員発議(提出) 賛成者10人以上、予算を伴う法律案は20人以上
参議院の委員会(調査会)提出 各委員会(調査会)での議決

 

(2) 議員立法の類型例

議員立法は提出主体による区分の問題であり、通常の法律であるから、憲法に反しない限りどのような法律でも提出することができることは言うまでもない。議員立法は提出までの手続き、過程が閣法よりも迅速であり、成立する場合も全会一致かそれに準じている場合が多いので国会審議も時間を要しないことが多い。しかし、内閣提出ではなく、議員立法として提出されるものには一定の傾向があり、様々な類型化が試みられている。

議員立法の政策内容に関連した分類の一例を挙げれば次のとおりである3)議員立法の類型化は数多く試みられており、国会図書館の「帝国議会および国会の立法統計」(レファレンス2010.11)には、その一覧が掲載されているが、本稿では茅野千江子 「議員立法はどのように行われてきたか」(国立国会図書館レファレンス2016.1)をもとに記述した。

①国会・選挙・政治資金関係の法律(政府からの自律性が必要との考え)
②地域振興関係の法律(棚田地域振興など議員の地元に対する国の支援)
③業法・士法(業界団体の要望に応える)
④災害対策関係の法律(大規模災害など緊急に対応が必要なもの、被災者再建支援など政府が主導しにくいもの)
⑤議員の価値観・倫理観に基づく法律(臓器移植法など)
⑥新たな犯罪、社会問題に対応する法律(児童ポルノ規制、ストーカー行為規制など)
⑦特定の政策分野に関する基本法(プログラム規定で政府に具体的な施策を促すもの)
⑧各分野の基本的な法律などに分類される。

また、別の観点からの分類もある。法案提出者がどのような意図をもって提出しているかによるもので、「政策実現型」と「政策表明型」の分類である。政策実現型は、議会における多数派の政策を背景とする議員提出法律案で、成立を見込んで提出するものと説明される。与党提出ないしは超党派提出(与野党相乗り)の議員立法である。

他方の政策表明型は、成立することは期待できないが議会における少数派が政策を表明する手段として提出する議員提出法律案とされる。主として野党が提出する議員立法である。政策表明型は、さらに「対案型」と「政策先取型」に分けられている。対案型は閣法や与党提出の議員立法に対して野党が自らの主張を法律案にしたものである。政策先取型は政府与党に先行して問題点を提示するケースで、将来的に政府与党の立法を促す効果がある場合もある。

 

(3) 議員立法の審議

前述のように、形式的には閣法と議員立法との大きく二種類に分けられるが、現実には閣法を中心に国会では取り扱われる。議院内閣制では選挙で勝利した多数党が与党となり、その与党の政策、国会(与党)が信任した内閣の政策を法律を通じて実現していくことになる。与党・内閣の政策は内閣提出法律案に示されており、その成立に全力を挙げるのが第一義となるから、国会における審議は閣法が優先される。議事のスケジュールの主導権も多数党が握っているから当然のことである。逆に、議員立法は、国会において自己の政策の主張を示す方法が他にない野党提出のものが多くなる。野党提出の議員立法は多数を背景に持たないため可決されることは非常に少ない。与党議員提出の法案数は少ないが、その内容からして議員立法が望ましいような場合に提出されることがある。

下の表1は、2000年以降の閣法と議員立法の提出件数(前の会期からの継続法案も含む)、成立件数、成立率の一覧表である。そのどれをとっても、閣法が議員立法を圧倒している。この20年間の合計の成立率だけを見ても、閣法は85パーセント強であるのに対し、議員立法は20パーセントを切っている。これは、国会の審議は閣法を中心に行われていることを明確に示している。議員立法の活性化については、内容的な考察も必要かもしれないが、少なくとも提出件数等の数字を見る限りでは、一時的な件数増加は見られるものの、全体的に活性化の方向に進んでいるとは思えない。なお、衆法の方が参法よりも、提出件数、成立件数、成立率ともに多い。

<PDFはこちら>

例えば、2019年(平成31年、令和元年)の198回通常国会では、前の国会から継続審議となっているものも含め69の衆法が提出(つまり審議の対象となりうる)されていた。しかし、このうち成立したものは11法案であり、後に資料を提示するが一回も審議されなかったものは53法案である。参法については34法案が提出(前の国会からの継続議案はない)されたが、一度も審議の対象とならなかったのは26法案で、成立したのは4法案であった。両院合わせて103法案中15法案の成立であり、15パーセント弱の成立率である。

法案は委員会に付託されることによって国会の議論の対象となる。衆法の69法案のうち、この会期で初めて提出されたのは36法案(前からの継続が33法案)で、その半数以上の20法案は会期終了日前日になってようやく委員会に付託された。この付託は法案を次の会期へと継続審査にするための手続き的なもの4)国会の活動は会期単位で行われ、会期中に議決されなかった案件は次の会期には継続しない「会期不継続の原則」がとられている(国会法68条)。しかしながら、国会法47条2項では「常任委員会及び特別委員会は、各議院の議決で特に付託された案件(懲罰事犯の件を含む。)については、閉会中もなお、これを審査することができる」とし、さらに、68条但書において「閉会中審査した議案及び懲罰事犯の件は、後会に継続する」として、会期不継続の原則の例外を定めている。実際には、この例外規定により継続される案件は少なくない。実際の閉会中審査、議案の継続をするための手続は、原則として会期末に各委員会からその旨を申し出て、それを本会議で認めることとなっている。委員会が閉会中審査を申し出るためには案件が委員会に付託されていることが必要となる。それゆえに、会期末に未付託の議案が委員会にいったん付託されることになる。もちろん、未付託のまま廃案となることもある。で、次の会期においても実際の審査をする可能性は少ない。特に衆議院においては、与党は野党の議員立法の内容について反対であっても、法案の継続には賛成し会期の終了をもって廃案とはしないことが多く、継続が次の会期での審議入りを意味することにはならない。衆議院が解散されると、継続を続けて累積した議員立法は審査未了廃案になり、紙の山だけが残る。参議院においては、議決に至らなかった参法は継続されずに廃案とする取り扱いが多く、未付託未了(廃案)の件数が少なくない。やはり紙の山が積まれる。

脚注

脚注
本文へ1 衆議院先例集平成29年版
本文へ2 閣法については衆議院先議が基本となるが、与党は、全体的な審議日程や議案の内容などを考慮して、会期の初めに議院運営委員会理事会において、参議院先議の議案を提案する。その後、与野党の協議により参議院先議法案が決められ、内閣はその決定に沿って衆議院か参議院のどちらかに法案を提出する。
本文へ3 議員立法の類型化は数多く試みられており、国会図書館の「帝国議会および国会の立法統計」(レファレンス2010.11)には、その一覧が掲載されているが、本稿では茅野千江子 「議員立法はどのように行われてきたか」(国立国会図書館レファレンス2016.1)をもとに記述した。
本文へ4 国会の活動は会期単位で行われ、会期中に議決されなかった案件は次の会期には継続しない「会期不継続の原則」がとられている(国会法68条)。しかしながら、国会法47条2項では「常任委員会及び特別委員会は、各議院の議決で特に付託された案件(懲罰事犯の件を含む。)については、閉会中もなお、これを審査することができる」とし、さらに、68条但書において「閉会中審査した議案及び懲罰事犯の件は、後会に継続する」として、会期不継続の原則の例外を定めている。実際には、この例外規定により継続される案件は少なくない。実際の閉会中審査、議案の継続をするための手続は、原則として会期末に各委員会からその旨を申し出て、それを本会議で認めることとなっている。委員会が閉会中審査を申し出るためには案件が委員会に付託されていることが必要となる。それゆえに、会期末に未付託の議案が委員会にいったん付託されることになる。もちろん、未付託のまま廃案となることもある。

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